キャタピラー
監督:若松孝二
音楽:サリー久保田、岡田ユミ
脚本:黒沢久子、出口出
出演:寺島しのぶ(黒川シゲ子)、大西信満(黒川久蔵)、吉澤健(黒川健蔵)、粕谷佳五(黒川忠)、増田恵美(黒川千代)
「黒い雨とともに」
「キャタピラー」です。ベルリン国際映画祭で寺島しのぶが最優秀女優賞を受賞したことで注目されている映画です。日本人は海外の評価に弱いので、映画そのものまで大絶賛する人が多いと思いますが、キャタピラーは、エンターテインメントとしては大したことがないように思えます。
冒頭シーンは、日本軍の「略奪強姦勝手次第」のシーンです。歴史上、多くの戦争で占領された側は、金品や女を奪われます。日本軍は一般人に辱めを受けるなら自決しろという一方で、多くの占領地で同じことをやっていたわけです。はっきりとは表現していませんが、主人公、シゲ子の夫、久蔵は占領地で勝手次第中に四肢を失ってしまったようです。
それが国を挙げて「生ける軍神」として奉られ、地域でも崇拝される一方で不自由な身体で妻の身体を求め続けます。何が正義で、何が美徳なのか、裏と面が垣間見えるという点では、興味深い映画だと言えます。お国のためと言いながら、終戦でお国を失った人々はどうしているのか、久蔵とアホの(ふりをしていた?)村人の行動などをもっと描くと面白かったのかもしれません。
この映画、終盤は趣が変わることがわかります。実際には日本の敗色が濃厚になってもマスコミは勝利を伝え続け、沖縄戦、原爆投下、終戦を映像や数字と交えて伝えます。何せ海外で評価された映画なので現在の介護問題などと絡めて無理に持ち上げる人が多いかもしれませんが、これは四肢を失った人とその家族の物語を隠れ蓑にした反戦映画です。
ちょうど、広島での慰霊祭に連合国側の方々が出席しましたが、戦後65年が経過し、明らかに第二次世界大戦への見方が変わってきています。一昔前なら、きのこ雲を映しながら犠牲者の人数を出すだけで海外でははじかれていたでしょう。それが受け入れられるようになったのです。
同様に日本国内でも太平洋戦争に対する見方が変わってきています。若者の中には美談のように讃える人もいるようですが、この映画は戦争の真実を描いています。だからこそ、教育映画として日本各地の学校で上映して欲しいものです。「黒い雨」のように。上映の障壁は多すぎる性描写なのですが、この部分をカットしてしまっては、侵略戦争の真実や久蔵の心の変化がわからなくなるので、是非ノーカットで。
【基礎点】
一般の邦画(20点)
・20点
【技術点】
テーマははっきりしているか(10点)
(一言で説明出来るか/魅力的だったか)
・10点
戦争で四肢を失った夫を介護する妻の話。
そのテーマは時代にマッチしているか(10点)
(今の時代に当てはまるような要素があるか)
・5点
深読みすれば、介護問題になるが、それ以前に美談だけ残りつつある太平洋戦争の真実のごく一部を伝える上で現代に必要な映画。
観光要素はあったか(10点)
(何か目新しく感じられる要素はあったか)
・5点
設定自体が観光要素。
観光要素は魅力的だったか(10点)
(その観光要素は魅力的なものだったか)
・5点
魅力的であり、おぞましい。
主人公に貫通行動があるか(10点)
(主人公の目的=欲望がはっきりしているか)
・8点
妻は夫を介護しながら、今までは否定していた食べて、寝て、食べて、寝ての考えを肯定し始める。
【芸術点】
印象に残る人物はいたか(10点)
(多くても1、2名に限る。それ以上いたら逆効果なので減点)
・10点
久蔵。回想などを交えて心理描写などが巧みに描かれている。
印象に残るシーンはあったか(10点)
(多くても1、2シーンに限る。それ以上だと逆効果なので減点)
・10点
冒頭シーン、勝手次第の後の現地の女性の眼。
泣けたか(10点)
(ストーリーの流れで泣けた部分はあったか=単に人が死んだとか、物理的な悲しさは評価外)
・2点
泣きの要素は少ない。
笑ったか(10点)
(ストーリーの流れで笑った部分はあったか=主人公の仕草とかで笑いを誘った場合は評価外)
・5点
シゲ子の「芋虫ごろごろ」はそれなりにカタルシスがある。
怒りを覚えたか(10点)
(ストーリーの流れで怒りを覚えた部分はあったか)
・2点
シゲ子の戦争や夫の介護に対する怒りがもっと伝わってくれば、映画に厚みが出ていたかもしれない。
【減点項目】
・減点なし。
基礎点(20)+技術点(33)+芸術点(29)×1.5-減点(0)=CinemaX指数(97)
「C」評価(80~99点)
賞をとるかとらないかは紙一重。海外で評価されたからといって過度に持ち上げないことを祈ります。
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