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April 11, 2010

第9地区

監督:ニール・ブロンカンプ
製作総指揮 ビル・ブロック、ケン・カミンズ
音楽:クリントン・ショーター
脚本:ニール・ブロンカンプ、テリー・タッチェル
出演;シャールト・コプリー、デヴィッド・ジェームズ、ジェイソン・コープほか

「SF映画のあるべき姿」

第9地区です。アカデミー賞に数多くノミネートされながら、受賞はかないませんでしたが、アバター一色だった昨年の映画界の中で何故この映画がノミネートされたのかは、実際にこの観れば分かります。果たしてCinemaXの評価やいかに。

「第9地区」は衝撃的でした。冒頭は後日談としてのインタビュー形式に違和感があり、エビと呼ばれる宇宙人とのドタバタを観て一見、おちゃらけた映画のような感じがしたのですが、期待を大きく裏切ってくれました。最高のSF映画です。

人間社会を切り取って全く別の話として表現するのは、古来から用いられた手法ですが、SF映画でこれをやると、架空の話にリアリティを持たせてくれます。「アバター」も民族運動になぞられているためリアリティがありました。現実世界と全く違う空間での話でヒットした映画は「スター・ウォーズ」ぐらいです。

「第9地区」は南アフリカが舞台なので、アパルトヘイトを表現したのだろうとの見方も多いのですが、実はアパルトヘイトなど世界各地の民族紛争の根幹となった人間の行動性のようなものを表現しているようです。

評価に移ります。

【基礎点】

一般の洋画(15点)
・15点

【技術点】

テーマははっきりしているか(10点)
(一言で説明出来るか/魅力的だったか)
・10点
地球人が妻と異星人を守ろうとする話。

そのテーマは時代にマッチしているか(10点)
(今の時代に当てはまるような要素があるか)
・10点
家族愛と友情は不変。

観光要素はあったか(10点)
(何か目新しく感じられる要素はあったか)
・10点
第9地区のバラック街。

観光要素は魅力的だったか(10点)
(その観光要素は魅力的なものだったか)
・8点
第9地区は大なり小なりアパルトヘイトの時代の街並みを再現しているのかもしれないと思うと、人間の性悪説を感じざるを得なかった。

主人公に貫通行動があるか(10点)
(主人公の目的=欲望がはっきりしているか)
・9点
利口ではないが気のいい主人公が妻を思い、異星人を救おうとする姿勢には充分なカタルシスがあった。

【芸術点】

印象に残る人物はいたか(10点)
(多くても1、2名に限る。それ以上いたら逆効果なので減点)
・10点
異星人の親子。特に子供は不気味な風体のはずなのに、不思議と可愛さを感じた。

印象に残るシーンはあったか(10点)
(多くても1、2シーンに限る。それ以上だと逆効果なので減点)
・10点
何よりも花を作るエビのラストシーン。必要な情報だけを提供し、後日談は観客の想像に任せるという終わり方は秀逸。

泣けたか(10点)
(ストーリーの流れで泣けた部分はあったか=単に人が死んだとか、物理的な悲しさは評価外)
・9点
異星人への同情を集める不思議な映画。我々人間がこういう感情を抱き、映画界からも評価されているとするならば、人間の心は捨てたもんじゃないと感じた。

笑ったか(10点)
(ストーリーの流れで笑った部分はあったか=主人公の仕草とかで笑いを誘った場合は評価外)
・9点
主人公の愚直なまでの行動は、悲しみを含んだ笑いの要素があった。

怒りを覚えたか(10点)
(ストーリーの流れで怒りを覚えた部分はあったか)
・10点
この映画における主人公の敵は異星人ではなく、人間社会の偏見。自分とは違うものを排除しよう、見た目の悪い連中は行動も悪いなど、人間の奥底にある性格を見事に表現している。大きなものを敵に回した映画だけにリアリティがあり、観客の感情移入のポイントがほぼ統一されているように思う。

【減点項目】
・減点ゼロ。

基礎点(15)+技術点(27)+芸術点(48)×1.5-減点(0)=CinemaX指数(134)

「A」評価(120点以上)

「第9地区」は殺戮シーンが多い映画なのですが、意外と残酷さは感じないのが特徴です。秀作の割に公開される劇場が少ないのが殺戮シーンの多さだけだとすれば、公開するか判断するお偉方の映画に対する見識を疑います。この映画をきちんと観ているのか。

SF映画の体ですが、どの映画にも負けない人間の感情を揺さぶる内容です。アバターを含め今まで観たSF映画はもちろん「壮大なスペクタクル」と謳うどの映画もちっぽけに感じてしまうほどのインパクトのある「第9地区」是非一度、ご覧下さい。

2010年4月10日/ワーナーマイカルシネマズ板橋
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April 07, 2010

息もできない

監督:ヤン・イクチュン
音楽:ジ・インヴィジブル・フィッシュ
脚本:ヤン・イクチュン
出演:ヤン・イクチュン、キム・コッピ、イ・ファン、チョン・マンシク、ユン・スンフン、キム・ヒスほか

「骨太」

予告編からして暴力の匂い漂う「息もできない」ですが、その名の通りところどころで息が出来なくなりそうな映画です。下手をすれば息をするのも忘れてしまうような映画。数分に一度、ああ呼吸してるなと自覚するような映画。それが決まって深呼吸だったりします。

近年、イケメン俳優出演の薄っぺらい韓流映画が増えたように思いますが、やはり面白いのはアクションとか暴力シーンを巧みに含んだ映画です。主役はどの映画も男臭く、イケメンとは程遠いのが特徴ですが、これが逆に映画の魅力を増します。

「息もできない」は暴力と主人公たちの不遇さが肝となる映画なのですが、韓流スターの綺麗どころがシチュエーションで追い詰められるのと違い、生身の人間が動いているようでずっしりと重いのが特徴です。敵対する国と国境を接していることや徴兵制度なども日本映画にはない緊張感を持たせるエッセンスになっているのかもしれません。

評価に移ります。

【基礎点】

日本・アメリカ以外の映画(25点)
・25点

【技術点】

テーマははっきりしているか(10点)
(一言で説明出来るか/魅力的だったか)
・6点
家族の愛に飢えているチンピラ、サンフンと女子高生、ヨニの純愛。

そのテーマは時代にマッチしているか(10点)
(今の時代に当てはまるような要素があるか)
・6点
家族愛は不変のもの。

観光要素はあったか(10点)
(何か目新しく感じられる要素はあったか)
・2点
一昔前の日本のようにどこか懐かしい感じのする街並みは観光要素か。

観光要素は魅力的だったか(10点)
(その観光要素は魅力的なものだったか)
・2点
上記の通り。

主人公に貫通行動があるか(10点)
(主人公の目的=欲望がはっきりしているか)
・10点
父を憎み、異母姉を死んだ実姉に重ねるように救おうとするサンフンと、同様に家族の問題を抱え、周りに頼られて苦しくても自らは沈黙を守るヨニ。

【芸術点】

印象に残る人物はいたか(10点)
(多くても1、2名に限る。それ以上いたら逆効果なので減点)
・10点
サンフンとヨニ。

印象に残るシーンはあったか(10点)
(多くても1、2シーンに限る。それ以上だと逆効果なので減点)
・10点
本編の後半に漢江でサンフンがヨニに膝枕を求めるシーン。セリフはほとんどないが、この映画の全てを象徴するようなシーン。

泣けたか(10点)
(ストーリーの流れで泣けた部分はあったか=単に人が死んだとか、物理的な悲しさは評価外)
・10点
漢江のシーン。ここまでは伏線など人工的な細工が全く見えない不思議な映画。

笑ったか(10点)
(ストーリーの流れで笑った部分はあったか=主人公の仕草とかで笑いを誘った場合は評価外)
・8点
異母姉の息子、サンフンとヒョンインのやりとりは笑える。特にサンフンのおしつけ親切は面白い。

怒りを覚えたか(10点)
(ストーリーの流れで怒りを覚えた部分はあったか)
・7点
主役2人が抱える家族問題の背景にはベトナム戦争とか悪化する国内情勢がある。それだけにやるせない怒りというものは感じる。映画における怒りの要素は、どうにもならないものを対象とすると味わい深くなる。構成は難しいが。

【減点項目】

・減点なし。

基礎点(25点)+技術点(26)+芸術点(45)×1.5-減点(0)=CinemaX指数(119)

「B」評価(100~119点)

A評価に限りなく近い映画ですが、残念ながら単館映画で限られた場所でしか観ることが出来ません。暴力シーン満載なのでヘタレのシネコンが取り扱うことはないでしょうが、これだけの出来ですから、口コミで劇場が拡大するのは時間の問題でしょう。

前述のとおり、中盤までは伏線が全く見えず、ごく自然にストーリーが流れます。それでいて支離滅裂ではなく、着実に話が盛り上がり、漢江のシーンで集大成を迎えます。自然に、静かに、それでいてこれだけ盛り上がるシーンは、ニュー・シネマ・パラダイスのラストシーンぐらいじゃないでしょうか。

後半は盛り上がりすぎた展開の落としどころを探るように展開がやや陳腐になっていくのですが、それでもこれだけの大きな山を作ったのですから、着地点も高いといえます。冒頭シーン一発で主人公、サンフンの性格を表すさまはL.A.コンフィデンシャルを彷彿とさせますし、エンディングはまさに家族ゲーム。名作に不可欠の「あーあ感」が滲み出ています。

韓流スターを据えただけの薄っぺらい映画はいりませんが、こういった骨のある映画は大歓迎です。一方で邦画は相変わらずテレビでのPRが行われ、挙げ句の果てに前編と後編に分ける始末。もちろん金儲けのためでしょうが、2時間でも3時間でも一本としてまとめられないのは、作り手の手腕として大きな問題だと考えることも出来るのですが。

みっともないことはやめてもらいたいです。

2010年4月2日/シネマライズ
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