インビクタス/負けざる者たち
監督:クリント・イーストウッド
製作総指揮:モーガン・フリーマン、ティム・ムーア
原作:ジョン・カーリン
音楽:カイル・イーストウッド、マイケル・スティーヴンス
脚本:アンソニー・ペッカム
出演;モーガン・フリーマン、マット・デイモンほか
「田舎の優等生」
ここ数年、良作を生み出し続けているクリント・イーストウッド監督作品です。主演はモーガン・フリーマンとマット・デイモン。「ショー・シャンクの空にの組み合わせ?」と思いきや、あの時の青年はティム・ロビンスでした。雰囲気は似ています。
構成を練りに練った映画なのか1990年にネルソン・マンデラ氏の釈放後、これから目まぐるしく変わるであろう南アフリカ共和国の実状を道路一本だけで表現しています。マンデラ氏の釈放から南アフリカ共和国の大統領就任までの事実は、多くの人が知っていますが、実際にどのようなことがあったのか、意外と知られていません。
ここを巧みに掘り起こして描いたのが、インビクタスです。知名度がある出来事(マンデラ大統領就任)なら話題にとっつきやすく、情報が深掘りされていないのなら、そこに効果的に嘘も混ぜられます。実話をもとにした映画は、エピソードを何でもかんでも詰め込みすぎて実話負けすることが多いように思いますが、ここ数年のクリント・イーストウッド監督は、実話やエピソードをバランス良く混ぜる感覚を会得したのかもしれません。
インビクタスは、1995年に南アフリカで開催されたラグビーのW杯を柱に展開するのですが、いわゆるスポ根ものではありません。チラシなどではマット・デイモンが演じるラグビー南ア代表、フランソワが目立っているので一見、バリバリの主役のようですが、実はこのキャラクターは無味無臭で、マンデラ大統領を見ながら少しだけ進歩するだけの目撃者のような役割をもっているようです。マンデラ大統領も娘との関係を除き動揺すらみせないなど主役級の心変わりは僅かなので、どこか物足りなさを感じる方もいるかもしれません。
一方で白豪主義をあちこちでひけらかすフランソワの父親が少しづつ心変わりするさま、黒人と白人が入り混じったSPが打ち解けていくさま、街ではゴミを拾って生計を立てる黒人の子供と警察?の白人が試合のラジオ放送を解して馴染んでいくさまなど脇役の心変わりをさりげなく描き、南アフリカの変化を表現しています。
特にラグビーの試合中に数カット挟み込まれるガキと警察?の距離感は絶妙です。ガキと警察?の位置もさることながら、このガキが最初は何を持っていて、何に持ち替えて、どういう反応をしていくのか、まさに一目瞭然の映像になっています。
評価に移ります。
【基礎点】
一般の洋画(15点)
・15点
【技術点】
テーマははっきりしているか(10点)
(一言で説明出来るか/魅力的だったか)
・7点
マンデラ大統領がアパルトヘイト撤廃後、ラグビーを介して国民の融合を図ろうとする話。
そのテーマは時代にマッチしているか(10点)
(今の時代に当てはまるような要素があるか)
・8点
人種問題は永久不変の問題。
観光要素はあったか(10点)
(何か目新しく感じられる要素はあったか)
・6点
つい20年前までアパルトヘイトという制度があったという事実。
観光要素は魅力的だったか(10点)
(その観光要素は魅力的なものだったか)
・9点
知名度は高いが実態はなかなか知られていない要素を見つけ、映画の題材として扱うのは鉄板。
主人公に貫通行動があるか(10点)
(主人公の目的=欲望がはっきりしているか)
・8点
マンデラ大統領はとにかく揺るがない。だが、心変わりをしないので物足りなさは残る。
【芸術点】
印象に残る人物はいたか(10点)
(多くても1、2名に限る。それ以上いたら逆効果なので減点)
・5点
超脇役だが、ゴミを拾って生計を立てている黒人の子供と、白人警察官?2名の3人。主役級以外に濃厚にストーリーに絡むキャラクターは意外と少なかったりもする。
印象に残るシーンはあったか(10点)
(多くても1、2シーンに限る。それ以上だと逆効果なので減点)
・7点
上記のシーン。カットバックでほとんどセリフもないのに白人と黒人の融合が一目瞭然。
泣けたか(10点)
(ストーリーの流れで泣けた部分はあったか=単に人が死んだとか、物理的な悲しさは評価外)
・6点
試合前にスタジアムの上空を横切る旅客機のシーン。話が出来すぎている感もあるが、感動する。
笑ったか(10点)
(ストーリーの流れで笑った部分はあったか=主人公の仕草とかで笑いを誘った場合は評価外)
・8点
黒人の子供と白人警察官?のシーン。この映画はこのシーンに尽きるかもしれない。
怒りを覚えたか(10点)
(ストーリーの流れで怒りを覚えた部分はあったか)
・3点
人類に対する犯罪と呼ばれるアパルトヘイトを扱った割には徹底的な悪は描かれていない。これは作り手の戦略かもしれない。
【減点項目】
・減点なし。
チラシなどを見ると一見、スポ根映画のようですが、選手にはほとんどクローズアップしていないのでスカッとはしません。
基礎点(15)+技術点(38)+芸術点(29)×1.5-減点(0)=CinemaX指数(97)
「C」評価(80~99点)
クリント・イーストウッド監督は早撮りで有名なのだそうですが、その割には1シーン、1カットが計算しつくされています。ただし、優等生だけにそこそこのインパクトはあるのですが、優等生ゆえに物足りなさが残る映画なので、よほどのことがない限り映画史の中に埋もれていく存在になるでしょう。
幼い頃は神童と言われたような田舎の進学校の優等生も、一歩都会に出れば埋もれてしまうように。
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