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February 22, 2010

インビクタス/負けざる者たち

監督:クリント・イーストウッド
製作総指揮:モーガン・フリーマン、ティム・ムーア
原作:ジョン・カーリン
音楽:カイル・イーストウッド、マイケル・スティーヴンス
脚本:アンソニー・ペッカム
出演;モーガン・フリーマン、マット・デイモンほか

「田舎の優等生」

ここ数年、良作を生み出し続けているクリント・イーストウッド監督作品です。主演はモーガン・フリーマンとマット・デイモン。「ショー・シャンクの空にの組み合わせ?」と思いきや、あの時の青年はティム・ロビンスでした。雰囲気は似ています。

構成を練りに練った映画なのか1990年にネルソン・マンデラ氏の釈放後、これから目まぐるしく変わるであろう南アフリカ共和国の実状を道路一本だけで表現しています。マンデラ氏の釈放から南アフリカ共和国の大統領就任までの事実は、多くの人が知っていますが、実際にどのようなことがあったのか、意外と知られていません。

ここを巧みに掘り起こして描いたのが、インビクタスです。知名度がある出来事(マンデラ大統領就任)なら話題にとっつきやすく、情報が深掘りされていないのなら、そこに効果的に嘘も混ぜられます。実話をもとにした映画は、エピソードを何でもかんでも詰め込みすぎて実話負けすることが多いように思いますが、ここ数年のクリント・イーストウッド監督は、実話やエピソードをバランス良く混ぜる感覚を会得したのかもしれません。

インビクタスは、1995年に南アフリカで開催されたラグビーのW杯を柱に展開するのですが、いわゆるスポ根ものではありません。チラシなどではマット・デイモンが演じるラグビー南ア代表、フランソワが目立っているので一見、バリバリの主役のようですが、実はこのキャラクターは無味無臭で、マンデラ大統領を見ながら少しだけ進歩するだけの目撃者のような役割をもっているようです。マンデラ大統領も娘との関係を除き動揺すらみせないなど主役級の心変わりは僅かなので、どこか物足りなさを感じる方もいるかもしれません。

一方で白豪主義をあちこちでひけらかすフランソワの父親が少しづつ心変わりするさま、黒人と白人が入り混じったSPが打ち解けていくさま、街ではゴミを拾って生計を立てる黒人の子供と警察?の白人が試合のラジオ放送を解して馴染んでいくさまなど脇役の心変わりをさりげなく描き、南アフリカの変化を表現しています。

特にラグビーの試合中に数カット挟み込まれるガキと警察?の距離感は絶妙です。ガキと警察?の位置もさることながら、このガキが最初は何を持っていて、何に持ち替えて、どういう反応をしていくのか、まさに一目瞭然の映像になっています。

評価に移ります。


【基礎点】

一般の洋画(15点)
・15点

【技術点】

テーマははっきりしているか(10点)
(一言で説明出来るか/魅力的だったか)
・7点
マンデラ大統領がアパルトヘイト撤廃後、ラグビーを介して国民の融合を図ろうとする話。

そのテーマは時代にマッチしているか(10点)
(今の時代に当てはまるような要素があるか)
・8点
人種問題は永久不変の問題。

観光要素はあったか(10点)
(何か目新しく感じられる要素はあったか)
・6点
つい20年前までアパルトヘイトという制度があったという事実。

観光要素は魅力的だったか(10点)
(その観光要素は魅力的なものだったか)
・9点
知名度は高いが実態はなかなか知られていない要素を見つけ、映画の題材として扱うのは鉄板。

主人公に貫通行動があるか(10点)
(主人公の目的=欲望がはっきりしているか)
・8点
マンデラ大統領はとにかく揺るがない。だが、心変わりをしないので物足りなさは残る。

【芸術点】

印象に残る人物はいたか(10点)
(多くても1、2名に限る。それ以上いたら逆効果なので減点)
・5点
超脇役だが、ゴミを拾って生計を立てている黒人の子供と、白人警察官?2名の3人。主役級以外に濃厚にストーリーに絡むキャラクターは意外と少なかったりもする。

印象に残るシーンはあったか(10点)
(多くても1、2シーンに限る。それ以上だと逆効果なので減点)
・7点
上記のシーン。カットバックでほとんどセリフもないのに白人と黒人の融合が一目瞭然。

泣けたか(10点)
(ストーリーの流れで泣けた部分はあったか=単に人が死んだとか、物理的な悲しさは評価外)
・6点
試合前にスタジアムの上空を横切る旅客機のシーン。話が出来すぎている感もあるが、感動する。

笑ったか(10点)
(ストーリーの流れで笑った部分はあったか=主人公の仕草とかで笑いを誘った場合は評価外)
・8点
黒人の子供と白人警察官?のシーン。この映画はこのシーンに尽きるかもしれない。

怒りを覚えたか(10点)
(ストーリーの流れで怒りを覚えた部分はあったか)
・3点
人類に対する犯罪と呼ばれるアパルトヘイトを扱った割には徹底的な悪は描かれていない。これは作り手の戦略かもしれない。

【減点項目】

・減点なし。
チラシなどを見ると一見、スポ根映画のようですが、選手にはほとんどクローズアップしていないのでスカッとはしません。

基礎点(15)+技術点(38)+芸術点(29)×1.5-減点(0)=CinemaX指数(97)
「C」評価(80~99点)

クリント・イーストウッド監督は早撮りで有名なのだそうですが、その割には1シーン、1カットが計算しつくされています。ただし、優等生だけにそこそこのインパクトはあるのですが、優等生ゆえに物足りなさが残る映画なので、よほどのことがない限り映画史の中に埋もれていく存在になるでしょう。

幼い頃は神童と言われたような田舎の進学校の優等生も、一歩都会に出れば埋もれてしまうように。 

2010年2月19日
Invictus03

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February 13, 2010

ゴールデンスランバー

監督:中村義洋
原作:伊坂幸太郎
音楽:斉藤和義
脚本:中村義洋、林民夫、鈴木謙一
出演:堺雅人、竹内結子、吉岡秀隆、劇団ひとりほか

「錯覚の妙」

ゴールデンスランバーを観てきました。ビートルズの同名曲をモチーフにしたようなしていないような、とにかく逃げて逃げて逃げまくる話です。

原作を読んだことがないのですが、指先のさかむけ程度のきっかけから腹を裂いていくような展開は見事です。
国家や権力の陰謀みたいなものが題材となっているのですが、かつて「世にも奇妙な物語」の持ち込み企画の多くが「国家の陰謀でした~チャンチャン♪」だったように、この手の題材は陳腐になりがちなのですが、ゴールデンスランバーはただそれを匂わせるだけにとどめたことでリアリティを増しています。

007が面白くなくなったのは東側勢力が崩壊したからといわれますが、ゴールデンスランバーも2、3年前に映画化されていたら失笑されていたに違いありません。ところが日本では政権交代が起こり、曲がりなりにもアメリカに楯突く政府が誕生していること、あたかも政権与党と検察が権力闘争が繰り広げられているように見えるなど時代の流れを反映していることもこの話を面白く感じさせてくれる要因になっているのでしょう。

この映画を観て検察に与えられた情報だけを報じ、煽るだけ煽って誤報でも責任をとらないマスコミ、そして足利事件のように何の罪もない人が犯罪者に仕立て上げられる恐ろしさを連想した方も少なくはないはずです。ついでに市橋事件も。意図的か偶然か、ゴールデンスランバーは最近の題材を遊園地のように織り交ぜてたまるでゲームのような映画なのですが、ゲームのような設定にとどまらず、実際の社会に編みこんだことで面白みが増したといえます。

例えばソウが何故、面白いのか?それはまるでゲームのような設定に実社会のエピソードを織り交ぜたからです。逆に続編以降がパワーダウンしたのはゲームの部分に終始してしまったからです。今後封切られる邦画で言うとライアーゲーム、トリックなどはまさにゲームなので、ストーリーや構成などが余程工夫されていない限り企画に溺れた凡作になってしまうことでしょう。

特筆すべきは、ゴールデンスランバーは人間の錯覚を利用した構成が抜群であるということです。ストーリー自体の時系列が割とバラバラで、時折主人公たちの学生時代を挟むのですが、現在のシーンも微妙に時系列が入り組んでいます。例えば冒頭のシーン。通り魔を話題にする親子と同じエレベーターに挙動不審の男。エレベーターを降りると子供が来ない。「もしかして?」という緊迫感で観客はそのシーンが印象に残ります。

そして最後に同じシーンで謎解き。観客が頭の中に勝手に作っていた時系列を崩す鮮やかさ。これはシックスセンスや誘拐のように観客が勝手に作った固定概念を打ち崩す構成にも共通するのですが、巧みな計算がないと成り立ちません。

評価に移ります。

【基礎点】

一般の邦画(20点)
・20点

【技術点】

テーマははっきりしているか(10点)
(一言で説明出来るか/魅力的だったか)
・10点
無実の罪を着せられた男がひたすら逃げる話。

そのテーマは時代にマッチしているか(10点)
(今の時代に当てはまるような要素があるか)
・10点
現在の我々を取り巻く事件を遊園地のように集めている。

観光要素はあったか(10点)
(何か目新しく感じられる要素はあったか)
・3点
ケネディ大統領暗殺犯、オズワルドのエピソードは目新しくはないが、この映画のミステリアスな部分を助長する要素となっている。

観光要素は魅力的だったか(10点)
(その観光要素は魅力的なものだったか)
・3点
同上。

主人公に貫通行動があるか(10点)
(主人公の目的=欲望がはっきりしているか)
・10点
とにかく、逃げる。

【芸術点】

印象に残る人物はいたか(10点)
(多くても1、2名に限る。それ以上いたら逆効果なので減点)
・5点
主人公の父親。

印象に残るシーンはあったか(10点)
(多くても1、2シーンに限る。それ以上だと逆効果なので減点)
・5点
この映画は冒頭と最後のシーンに尽きる。

泣けたか(10点)
(ストーリーの流れで泣けた部分はあったか=単に人が死んだとか、物理的な悲しさは評価外)
・3点
最後のシーン、主人公に気付くはずもない元恋人がとった行動。あるいはマスコミを追っ払う主人公の父親の立ち回り。

笑ったか(10点)
(ストーリーの流れで笑った部分はあったか=主人公の仕草とかで笑いを誘った場合は評価外)
・2点
笑えるシーンは少ない。

怒りを覚えたか(10点)
(ストーリーの流れで怒りを覚えた部分はあったか)
・6点
主人公が無実を訴えたくても取り付く島のない状態にもどかしさと怒りを感じた。

【減点項目】

筋違いのPRが行われている(-10点)

話に絡むキャラクターが多すぎる(-10点)

無意味なシーンが多すぎる(-10点)

寝てしまった(-30点)

映画館を出てしまった(-50点)

・減点なし

基礎点(20)+技術点(36)+芸術点(21)×1.5-減点(0)=CinemaX指数(88)

「C」評価(80~99点)

決してハッピーでない終わり方もこの映画の大きな特徴です。日本人は勧善懲悪のはっきりした終わり方を好みますが、実は「あーあ感」が残る映画のほうが後世に語り継がれます。余韻が残る映画なので、ハリウッドなど海外でのリメイクの予感も漂うのですが。

2009年2月11日/ワーナーマイカルシネマズ板橋
Ca1bcf9c

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February 07, 2010

ラブリーボーン

監督:ピーター・ジャクソン
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、テッサ・ロス、ケン・カミンズ、ジェームズ・ウィルソン
原作:アリス・シーボルド
音楽:ブライアン・イーノ
脚本:フラン・ウォルシュ、フィリッパ・ボウエン、ピーター・ジャクソン
出演:シアーシャ・ローナン、マーク・ウォールバーグ、レイチェル・ワイズ、スーザン・サランドン、スタンリー・トゥッチほか

「大人の御伽噺」

ラブリーボーンです。恵比寿ガーデンシネマ系の匂いがする予告に最初は敬遠しそうになったのですが、虫の知らせを扱ったようなテイストに興味を惹かれて観て来ました。ところが思った内容とは違ったラブリーボーン、果たしてCinemaXの評価やいかに。

虫の知らせというと、世の中には亡くなったタイミングで知人や家族が枕元に現れたとか、時効目前の犯人が殺めた人が夜な夜な夢に出てきて絶えられず出頭したなどと不思議なことが結構あります。ラブリーボーンも最初は殺された主人公、スージー・サーモンがあの世から事件を解決する映画だと思っていました。

ところが、死んだ主人公がこの世に与える影響は微々たるもので、憎しみを抱けば逆効果になってしまうというもどかしいものでした。心霊現象を扱ったような番組では、自分が死んだと判断出来ない霊が周りの人に必死に話しかけるということを聞いたことがありますが、ちょっとそれに通じる部分があるのかもしれません。

あの世の映像はCGです。美しいのですが、臨死体験をしたという人が表現する世界とあまり差がないようで、人間が想像出来る範疇内のように感じました。SF映画などでは、現実とかけ離れていると観客は感情移入出来ず、現状よりちょっと背伸びしたぐらいの設定が理想的だと思うのですが、ラブリーボーンのあの世のシーンは、人々が見聞きしている範疇内なので、手間がかかっている割には観客の印象には残らないものなのかもしれません。

評価に移りましょう。

【基礎点】

一般の洋画(15点)
・15点

【技術点】

テーマははっきりしているか(10点)
(一言で説明出来るか/魅力的だったか)
・8点
殺されたスージー・サーモンが、あの世からメッセージを送る話。

そのテーマは時代にマッチしているか(10点)
(今の時代に当てはまるような要素があるか)
・8点
家族愛は不変のテーマ。スージーがどれだけ家族を想っているかは、冒頭部分に丁寧に描かれているので重みはある。

観光要素はあったか(10点)
(何か目新しく感じられる要素はあったか)
・1点
あの世(厳密に言えば、天国の一歩手前らしい)の設定が、想像の範疇を超えなかった。

観光要素は魅力的だったか(10点)
(その観光要素は魅力的なものだったか)
・1点
あの世にいる人とこの世に生きる人との接点も想像の範疇を超えなかった。

主人公に貫通行動があるか(10点)
(主人公の目的=欲望がはっきりしているか)
・8点
家族を想い行動する点。最後に1つだけやりこのしたことをわざわざ戻って遂げるのは面白い。

【芸術点】

印象に残る人物はいたか(10点)
(多くても1、2名に限る。それ以上いたら逆効果なので減点)
・5点
霊が見えるスージーの同級生。キーになるかと思ったら本当に絡むのは最後の最後だけだった。

印象に残るシーンはあったか(10点)
(多くても1、2シーンに限る。それ以上だと逆効果なので減点)
・9点
スージーを殺した犯人がこらしめられるシーン。観客の想像を何度も裏切るのは面白かった。犯人の最後はまるで御伽噺のようだが、現場といいすっきりとまとまっていたと思う。

泣けたか(10点)
(ストーリーの流れで泣けた部分はあったか=単に人が死んだとか、物理的な悲しさは評価外)
・3点
殺された少女たちが紹介されるが、そこにスージーのあの世での友人が出てくる。いつも笑っているシーンとの落差があって、そこそこのツボになる。

笑ったか(10点)
(ストーリーの流れで笑った部分はあったか=主人公の仕草とかで笑いを誘った場合は評価外)
・2点
犯人の最後は御伽噺のような残酷な笑いを含んでいる。

怒りを覚えたか(10点)
(ストーリーの流れで怒りを覚えた部分はあったか)
・3点
無抵抗な少女たちを殺めた大人たちに怒りを覚える。この映画のテーマかもしれないが、少女ばっかり扱っているところは作り手の偏った趣味のようなものを感じる。シアーシャ・ローナンのドアップばかりだった映像もしかり。

【減点項目】

・原点なし
予告編は誤解を生む作りのように感じるが、必ずしも完全に本編とずれている訳ではない。

基礎点(15)+技術点(26)+芸術点(22)×1.5-減点(0)=CinemaX指数(74)

「D」評価(70~79点)

あの世のシーンはCGとはいえ目新しさがないのですが、想像を遥かに超える手間隙が掛かっているというのは、4曲にもわたる超ロングエンドロールが物語っています。でも観客には印象が殆ど残りません。無駄なところに力を入れてしまったような映画といえます。

2009年1月31日/ワーナーマイカルシネマズ板橋
Thelovelybones01

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