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July 23, 2009

剱岳 点の記

原作:新田次郎
脚本:木村大作、菊池淳夫、宮村敏正
音楽:池辺晋一郎
出演:浅野忠信、香川照之、松田龍平、仲村トオル、宮崎あおい、夏八木勲、役所広司ほか

「玉蜀黍」

「剱岳 点の記」です。中高年比率がやたら高い映画で、平日休日問わず午後の回などは、中高年の男女がゾロゾロ劇場に入る新宿コマ状態です。テレビでも出来そうな映画ばかりが目立つ邦画の中で、実は日本人は硬派な映画を待ち望んでいるのではないかと思える今日この頃、果たしてCinemaXの評価やいかに。

「剱岳 点の記」は、日本地図を完成させるために最後に残った三角点を設置するという話です。原作は新田次郎。誰もが一度は見たことがある三角点に等級があること、それを設置した人、日時や経緯まで詳細に記す点の記というものが存在することなど観光要素に満ちた映画です。それなのに…作りが雑な印象を受けました。いや、作り方そのものは丁寧です。

監督は名カメラマンと評される木村大作氏。そのせいか昭和40年代全盛だったカメラワークやシーンの繋ぎを随所で確認することが出来ます。例えばシーンの途中でズームをしたり、ストップモーションでゆっくりと次のシーンを重ねたり。古き良き日本映画の雰囲気を感じることが出来ます。さすがは東映。アニメと特撮の影で密かに古臭い映画を作り続けているだけのことはあります。

今どき「順撮り」(ストーリーの時系列に沿って撮影)を行うのも驚きです。映画はシーンごとに分けて、時系列に関係なくまとめ撮りをすれば労力は少なくてすみます。ところが、役者はいきなりラストシーンを演じるのと、順撮りでクランクアップに合わせてラストシーンを撮影する場合では役に対する思い入れが著しく異なるはずです。順撮りはリアルな演技を期待出来る方法なのですが、恐ろしく手間が掛かります。一方、順撮りを行わないと「ナルニア国物語」のように、第二次成長期の子供を起用したために、キャストの1人が短期間でやたら背が伸びすぎて困ったというようなこともあります。

「剱岳 点の記」の順撮りは、通常の順撮りではありません。舞台は山。つまり、主人公たちが剱岳を攻める方法を考えるための下見のシーンから撮影して、翌年、本番の撮影をします。しかも剱岳山頂のシーンは、実際に役者やスタッフを登らせて撮影しています。剱岳は日本一登ることが困難といわれる山ですし、明治40年に主人公の柴崎芳太郎がやっとのことで杭だけ立て、その後平成16年まで本格的な三角点が設置出来なかったほどの険しい山です。木村監督はキャストの集め方から上から目線で厳しい印象が残りますが、撮影に対する情熱は「映画バカ」の一言に尽きるのかもしれません。

ところが、リアルさばかり追及していると、観客に伝わりにくい部分が発生します。地図で解説すれば分かりやすいのに、登場人物のセリフや行動で展開するので地理関係がなかなかとらえられません。一方で人物設定が雑で、特に松田龍平演じる生田信の人物設定はぶれすぎて、ストーリーをぶち壊しにしています。他にもあまり意味のないシーンが挟まれるためにテンポが悪くなり、せっかくのいい素材(観光要素)を抱えた映画なのに、時間が経ちすぎてどんどん腐っていくような印象です。良くも悪くも木村監督の思うがままに作られた映画といえます。

評価に移ります。


【基礎点】

一般の邦画(20点)
・20点

【技術点】

テーマははっきりしているか(10点)
(一言で説明出来るか/魅力的だったか)
・10点
明治時代、日本地図を完成させるために剱岳山頂に三角点を設置しようとする男の話。

そのテーマは時代にマッチしているか(10点)
(今の時代に当てはまるような要素があるか)
・8点
宇宙、海底、高山と人類が到達しつくしたと思われる時代の中で、こうした挑戦を扱った映画は魅力がある。特に剱岳山頂に正式な三角点が設置されたのはつい5年前だったというのは驚き。また、メンツだけで人を動かす陸軍参謀本部の横暴さは、現代の企業社会に通じるものがあるかもしれない。

観光要素はあったか(10点)
(何か目新しく感じられる要素はあったか)
・10点
境目にカタルシスがあると仮定すると、剱岳は人間が足を踏み入れてはならない境目のエリアといえる。智頭を見たり、実際に足を運べば、立山連峰は何も目的がない人間が立ち入ってはならない場所だと言うことが分かるはず。

観光要素は魅力的だったか(10点)
(その観光要素は魅力的なものだったか)
・10点
身近なものの延長線上にあるのが観光要素。誰もが見たことがある三角点にそのようなエピソードがあるというのは驚き。そしてまた、やっとのことで剱岳に登頂したら、遥か1000年前に装備も何もない修験者が登っていた痕跡があったというオチも秀逸。

主人公に貫通行動があるか(10点)
(主人公の目的=欲望がはっきりしているか)
・10点
実直に物事に取り組む主人公、柴崎芳太郎の行動は一貫していた。修験者の痕跡を隠せばいいものを正直に話したために剱岳初登頂という栄光を逃し、歴史の中に消えた生き方も面白い。ただし題材を見つけ小説にした新田次郎の手腕であり、映画に上手く反映されたかは疑問が残る。

【芸術点】

印象に残る人物はいたか(10点)
(多くても1、2名に限る。それ以上いたら逆効果なので減点)
・8点
香川照之演じる測量隊案内人、宇治長次郎。霊峰として立ち入ってはいけない剱岳の登頂を手伝うという板ばさみにあう立場が面白い。ただし原作にあるか分からないが、親子の和解まで描いたのは、かえって映画を陳腐にさせてしまった感がある。

印象に残るシーンはあったか(10点)
(多くても1、2シーンに限る。それ以上だと逆効果なので減点)
・4点
登頂シーンのいくつか。順撮りで実際にその場で撮影したとあって迫力がある。映像的価値があるのではないかと思う。大画面の劇場のスクリーンで味わうべき。

泣けたか(10点)
(ストーリーの流れで泣けた部分はあったか=単に人が死んだとか、物理的な悲しさは評価外)
・0点
これも原作にあるかは分からないが、長次郎の親子の和解、柴崎の夫婦愛、生田の家族愛など中途半端に心情を織り交ぜてしまったことで映画のテンポが落ちてしまった。例えば「新幹線大爆破」は前半は緊迫感に満ち溢れているものの、後半は犯人の心情ばかりを追いかけてぶち壊しになったように、これは古き良き日本映画のクセなのかもしれない。

笑ったか(10点)
(ストーリーの流れで笑った部分はあったか=主人公の仕草とかで笑いを誘った場合は評価外)
・8点
前人未踏のはずなのに先人(1000年前の修験者)がいて栄光がフイになり、歴史上なかったことのようになってしまったことは、皮肉にも似た悲しい笑いを秘めている。
ちなみに評価とは関係ないが、最後のシーンで測量隊の観測時にタイミング良く山岳隊が登頂するのはまるでコント。双方が手旗信号で合図をし合うのもコント。このシーンが原作にあるかは分からないが、せっかくのリアリティがぶち壊し。

怒りを覚えたか(10点)
(ストーリーの流れで怒りを覚えた部分はあったか)
・0点
敵はいるが、憎しみをぶつけられるような存在ではないので評価が出来ない。大山鳴動して鼠一匹のような内容で悪人がいないのはどこか物足りないが、壮大なストーリーを犠牲者を(ほとんど)出さずに描いたのはある意味、凄いと思う。

【減点項目】

・減点なし。
人物の心情を追いかけるシーンが重なる時間帯は睡魔に襲われた。

基礎点(20)+技術点(48)+芸術点(20)×1.5-減点(0)=CinemaX指数(98)
「C」評価(80~99点)

映像は珠玉、ストーリーは凡庸。ただ題材の観光要素に魅力が溢れているので、全体的には面白い映画といえます。玉蜀黍(とうもろこし)は、熟成させて食べる肉と違い、とれたてが一番美味しく、収穫の瞬間から劣化が始まるそうです。「剱岳 点の記」はまさに玉蜀黍で、心情を描こうとか余計なことをしたばかりに鮮度が落ちてしまった感があります。挑戦するということ自体、カタルシスがあるのですから、徹底的に描けば心情など自ずと描けてくるはずです。映像が秀逸なだけにもったいない映画といえます。

2009年7月20日/新宿バルト9
332002view009

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Comments

『剱岳 点の記』原作者は、浅田次郎でなく、新田次郎です。訂正されたほうがよろしいかと思います……。

Posted by: 剱岳を観た者 | July 28, 2009 at 05:21 PM

ご指摘ありがとうございます。完全に誤解していました。

Posted by: yu-worldmaster | July 29, 2009 at 06:06 PM

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