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June 08, 2009

ハゲタカ

監督:大友啓史
原作:真山仁
音楽:佐藤直紀
脚本:林宏司
出演:大森南朋、玉山鉄二、栗山千明、高良健吾、遠藤憲一ほか

「機動戦士Zガンダム」

ハゲタカです。NHKが絡んでいるからか、ROOKIESのように露骨な宣伝もないのですが、もとは同名のNHKのテレビドラマがベースになっています。とすると「ハゲタカ」のライバルは封切られてもなおダメ押しのように宣伝が続く青春映画でもトム・ハンクスがローマを駆けずり回るあの映画でも、乳がん健診のPRには大きく貢献したものの、ドキュメンタリーの足元にも及ばなかった感のあるあの映画でもなく、テレビドラマ版「ハゲタカ」なのではないかと思う今日この頃、果たしてCinemaXの評価やいかに。

テレビドラマ版「ハゲタカ」との出会いは衝撃的でした。その日は友人が集っての鍋パーティ。ふとチャンネルを回して目に入った青色がかった映像。一同はあっという間に話しに引き込まれ、胃がキリキリするような緊張感でドラマが終わった時には鍋が煮詰まっていたのでした。同じようなテレビドラマ版が先行して映画化された作品の中には「クライマーズ・ハイ」があるのですが、映画化に当たり身構えてしまうのか、制作費にも差があるはずなのにテレビドラマの足元にも及ばない出来になっていることが少なくありません。

このほか「リング」もNHK版が秀逸で、映画版はオカルトなテイストが話題となり鈴木光司氏をホラー作家で飯を食わせる結果にはなったものの、主人公の性別を変えるなど工夫した割にはテレビドラマ版を超えることが出来なかったのが皮肉です。後の民放のテレビドラマ版は論外ですが。

このほか、離島の高校が甲子園でベスト8に進出するぐらいのインパクトはあった「ネコナデ」は、テレビドラマ版のチープな作りが帰って視聴者が親近感を抱く結果となり、隠れたヒットとなっています。一方でテレビドラマが話題となり映画化に踏み切ったらしい映画版「ネコナデ」は、キャストが豪華になった割には「堅物サラリーマンが野良猫をかくまいながら丸くなる」というポイントがボケてしまい、最悪の作品になりました。

話を映画版「ハゲタカ」に戻します。

映画版「ハゲタカ」は、出来る限りテレビドラマを観ていないと、分からない部分が多いかもしれません。そのことを説明するようなお人良しな映画ではないので。それでもこの作品の不思議なところは、分かったような感じになってしまうことです。それは、トヨタの規模とホンダの野心と日産のデザイン性を足したようなアカマ自動車が題材になっているからかもしれません。日本の基幹産業の1つである自動車産業は、日本そのものなのですから、その企業を狙う赤いハゲタカから守る…リーマンショック前、つまり去年の今ごろならよりリアリティのある映画として話題になっていたかもしれません。

折りしも、株価や原油価格が上がり始めました。投機資金の再び流入しはじめたことによるものという見方もありますが、「ハゲタカ」でも触れられていたように、国家が民間企業の顔をして参入すれば、潤沢な資金で市場をどうにでも動かせるという出来レースが可能になります。例えば原油価格の上昇による現金収入を狙うため、産油国が第三国や民間企業を迂回して投機資金を流入させても尻尾を掴むことは極めて困難といえます。

昨年7月以降、原油価格が急落したのは、米国商品先物取引委員会というところが「原油先物取引で変なことをしていないか監視するぞ」と睨みを利かせたからでした。こりゃヤバいと投資家が手を引いたため、プレイヤーが減り、原油価格は急落するのですが、それはヤバい国や人をバックに暗躍していた投資家が多かったということにもなります。国内でも経済紙の社員や記者、銀行員などがインサイダー取引をするぐらいですから、100%クリーンな市場は夢のまた夢ということになります。

また話が脱線してしまいました。

テレビドラマ版では、元銀行員の芝野とハゲタカこと鷲津の対立が大きなポイントでした。ところが対立したままでエンディングを迎えるわけにはいかず、多くのテレビドラマと同様にそれなりに融和してシリーズは終了しました。映画を作りにあたり、ポイントは対立軸です。例えば、踊る大捜査線はもともと青島と室井の対立軸がありましたが、最後は融和します。映画で再び対立させるのは馴染まないので、青島と室井の対立軸として新城を登場させ、2作目では同じような対立軸として女性キャリア、沖田を登場させます。

これはストーリー展開で隠されてしまいがちですが、段々と対立軸が薄まっていることが分かります。

例えば、「機動戦士ガンダム」は、ロボットアニメで初めてと言っていいほどやたら登場人物の心情を描き続けられたのは何故か、視聴者が複雑な心情にのめりこむことが出来たのは何故か…それは、連邦軍対ジオン軍という、わかりやすい対立軸があったからです。ただし、アムロとシャアがどこかで心を通じ合わせるように、いわゆるファーストガンダムも打ち切り同然なのですが、それなりの融和でエンディングを迎えます。

その後、機動戦士Zガンダム、機動戦士ガンダムZZでは敵味方が入り乱れて対立軸が段々と増えていき、視聴者は登場人物の心情を追いかける余裕がなくなります。ガンダムシリーズは近年も高い人気を誇りますが、ファーストガンダムだけ突出しているのは、対立軸がシンプルであったことの一言に尽きるでしょう。

前置きが長くなりましたが、映画版「ハゲタカ」は対立軸がブレてしまっています。芝山と鷲津の対立はなく、鷲津と赤いハゲタカ、劉の対立軸もはっきりとはしない。TOB価格の引き上げ合戦が見応えがあるようで緊迫感がないのは、対立軸がはっきりとしていないからといえるでしょう。加えて原作にあるのかは分かりませんが、派遣切りのエピソードを無理に入れたことでストーリーが崩れてしまいました。

テレビドラマ版の導入部は、貸しはがしでした。身近にあるであろう出来事から壮大な企業買収にまで話が発展していくため、ややこしい話でも視聴者はついていくことが出来るわけです。ところが映画版では売上高5兆円の雲の上の大企業からスタート。これではなかなか感情移入をすることが出来ません。劉が派遣社員とタバコを吸いながら身分の差を語るところ、脇役になってしまった東洋テレビ記者、三島の過去など一般人に身近に感じることが出来るエピソードのほうがカタルシスがあるのでしょう。

映画版では、この身近な視点を丁寧に引き出すと見応えのある映画になっていたのかもしれません。例えば、劉の素性と貧しい生活を経験した故に、高給取りになってもつい出てしまう行動などは興味があります。せっかく面白いタネがあるのですから、ここを丁寧に伸ばせばもっと面白い映画になったはずです。例えば赤い車の落書きなどは、途中で見せる意味は全くない。最後にパッと見せることで、劉はハゲタカになりきっていなかったのだなと分かるわけです。ところがこれをセリフで説明してしまう。本当にもったいない映画です。

【基礎点】

一般の邦画(20点)
・20点

【技術点】

テーマははっきりしているか(10点)
(一言で説明出来るか/魅力的だったか)
・7点
中国が日本そのものともいえる大企業を買収しようとする話。

そのテーマは時代にマッチしているか(10点)
(今の時代に当てはまるような要素があるか)
・3点
1年前なら8点ぐらい。例えば「デイトレーダーで2億円の資産を蓄えた主婦がいる」と言われても嘘臭く聞こえるような現在では、封切りのタイミングは良くない。

観光要素はあったか(10点)
(何か目新しく感じられる要素はあったか)
・2点
企業買収合戦は目新しくなく、むしろ国家が絡む、あるいは国家そのものが企業に投資する流れが本当にあることを描くと面白いのかもしれない。中国の話は噂、中東の話は実話。でもこれも観光要素としては乏しい。

観光要素は魅力的だったか(10点)
(その観光要素は魅力的なものだったか)
・2点
雲の上の話は観光要素にならないことを知った。

主人公に貫通行動があるか(10点)
(主人公の目的=欲望がはっきりしているか)
・4点
鷲津、劉ともに企業買収に走るが…鷲津は主人公としては存在が薄く、劉は軽過ぎる。芝山は脇役。結局全部中途半端。

【芸術点】

印象に残る人物はいたか(10点)
(多くても1、2名に限る。それ以上いたら逆効果なので減点)
・5点
劉。中国から日本に来るエピソードがもっと欲しかった。赤いハゲタカになりきれなかったことがわかる断片がもっと早い段階で欲しかった。

印象に残るシーンはあったか(10点)
(多くても1、2シーンに限る。それ以上だと逆効果なので減点)
・10点
冒頭のシーン。貧富の差を一発で描く冒頭のシーンは、戦艦ポチョムキンを髣髴とさせるインパクトがあった。

泣けたか(10点)
(ストーリーの流れで泣けた部分はあったか=単に人が死んだとか、物理的な悲しさは評価外)
・0点
赤い車の壁画は、途中で見せる必要はなかった。、劉が赤いハゲタカになりきっていないことが、視聴者が後になって「ああ」と分かるようなシーンを散りばめていれば、エンディングに一発この絵を見せると感動出来たはず。

笑ったか(10点)
(ストーリーの流れで笑った部分はあったか=主人公の仕草とかで笑いを誘った場合は評価外)
・0点
笑ったような記憶があるようで…ない。

怒りを覚えたか(10点)
(ストーリーの流れで怒りを覚えた部分はあったか)
・0点
鷲津が「この国は何も変わらない。バカな国民が政治家の行動をヘラヘラ笑ってみているだけ」というようなセリフは全くその通りで腹立たしさを感じた。確かにこの10年間だけでもみても規制緩和、自由化といっても何も変わっていない現実。小泉改革の中身も知らず自民党に投票した連中が増税で生活が苦しくなったと不満を言う現実。ただしストーリーの流れでの怒りではないので、CinemaXの評価外。

【減点項目】
・減点なし。

基礎点(20)+技術点(18)+芸術点(13)×1.5-減点(0)=CinemaX指数(61)

「E」評価(60~69点)

テレビドラマ版に引き続き演技派の役者揃いですが、玉山鉄二も埋没することなく頑張っていました。大森南朋はこれから先ずっと楽しみな俳優です。

2009年6月7日/シネプレックス新座
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Comments

「アラン、おまえは何も見えていない」
「対立軸がぶれることがいけないことでしょうか!」
初めてのご鑑賞かと推測しますが二回目はご覧いただけましたでしょうか?
二回目以降の印象が極めて異なってくるのがこの映画の特長ですので、是非二回目を映画館でご覧下さい。

Posted by: たっくん | June 09, 2009 at 10:00 PM

たっくん様、コメントありがとうございます。

もちろん一度しか観ていません。

二回目は、劉一華にクローズアップして観れば、味わいが変わってくるかもしれませんね。

黒澤明監督は「映画を勉強するなら同じ映画を最低三度は観ろ」と言ったとか言わないとか。

でも、多くの観客はよほど気に入った映画でない限り二度も三度も観ることはありません。

まずは一度観て素晴らしさが伝わる映画というのが基本であって、二回目以降で味わいが増す映画とすれば、後々評価されることでしょう。

Posted by: yu-worldmaster | June 11, 2009 at 12:12 PM

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Tracked on June 13, 2009 at 11:48 PM

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