ディア・ドクター
監督:西川美和
原作:西川美和
音楽:モアリズム
脚本:西川美和
出演;笑福亭鶴瓶、瑛太、余貴美子、井川遥、香川照之、八千草薫ほか
「カルピス」
西川美和監督作品です。この映画を知ったのは「鶴瓶噺2009」で鶴瓶さん本人がこの映画の話をしたからでした。余貴美子さんなど共演者のエピソードも面白くて、興味のある映画でもありました。不景気の中でハリウッド映画の製作スピードも鈍っているようで、日本ではテレビ局が小遣い稼ぎのように映画を作るようになってしまった今日この頃。、果たしてCinemaXの評価やいかに。
「ディア・ドクター」は、会場の音響が悪いのか、セリフが聞きづらく冒頭から置いてけぼりをくらってしまいました。主人公の医者が行方不明になったのは分かるのですが、どうしてここまでシーンを引っ張る必要があるのかと疑問に感じました。
したがって前半はとにかく睡魔との闘いです。シーンごとの小ネタは面白いのですが、ストーリーをひねったものではなく撮影現場で生まれたアドリブのようなもの。無医村に赴任して3年半の医師のもとに研修医がやってくるという話なのですが、この2人の対立はほとんどありません。研修医は外車を乗り回すボンボンなので「こんなド田舎来たくなかった」と反発すれば面白みもあるはずなのに、演ずる瑛太さんのイメージをそのままにしたように無味無臭。これではせっかくいい演技をしてもキャラクター自体に魅力がないのですから、飼い殺しです。
「ディア・ドクター」は、いい役者を揃えています。この人がいなければ「おくりびと」の魅力が半減したともいわれる余貴美子さん。そして、八千草薫さん、香川照之さん。監督が原作者なのですが、この映画、物凄く不利な点があるのです。
まるで「Dr.コトー診療所」ということです。
診療所には医師と勝気な看護師がいて、MR(たぶん)が時に医師の補助をしながら、設備が乏しい中で処置をする。もちろんそれぞれのキャラクターの職業や年齢設定が違いますが、観客に「Dr.コトー診療所」を連想させた時点で、この映画は負けです。
麦畑?が風に揺れたり、アイスキャンディーがどろっと溶けたり、つなぎのように流れるシーンは確かに面白いのですが、無駄なシーンが多く、シーンの中身も無駄ばかりで、まるで時間稼ぎをしているようでした。ところが、睡魔と闘いながら中盤にたどり着いて、井川遥さん演じる女医があわられると、いきなり面白くなります。
主人公の医者が、患者と結託して医者である娘をあざむこうとする話、医者が隠しきれなくなって、患者に白衣(つまり白旗)を振るシーン。娘が母(患者)の病気を知るシーン。そして、検査を受けて欲しいと遠回りに言うシーン。母が娘の気持ちを察知して受け入れるシーン。この一連のストーリーだけ、やたらと見応えがあります。キムタクと初共演したテレビドラマではわがまま邦題でキムタクが本気で怒っていた井川遥さんですが、この映画ではこれまでのイメージを一新するようなインパクトがありました。
これだけストーリーの密度が偏っているのことを考えると、もしかすると西川監督はこのエピソードだけを書きたくて、後は話を薄めたのかもしれません。まるでカルピスのような映画です。
評価に移ります。一部ネタバレなのでご注意ください。
【基礎点】
一般の邦画(20点)
【技術点】
テーマははっきりしているか(10点)
(一言で説明出来るか/魅力的だったか)
・10点
ニセ医者が無医村で医者のふりをする話。
そのテーマは時代にマッチしているか(10点)
(今の時代に当てはまるような要素があるか)
・4点
無医村、都市に集中する医師、医師が希望する科目が偏るなど現在の医療問題を切り取っているように見えて、実はストーリーがスカスカ。もったいない。
観光要素はあったか(10点)
(何か目新しく感じられる要素はあったか)
・3点
診療所の医師の給料は2000万円。
観光要素は魅力的だったか(10点)
(その観光要素は魅力的なものだったか)
・3点
意外な話ではあったが、ストーリー全体には関係ない。
主人公に貫通行動があるか(10点)
(主人公の目的=欲望がはっきりしているか)
・0点
主人公の医師はタコのようにフラフラしている。つい最近赴任したならともかく、就任して3年半が経過しているとは考えにくい。
【芸術点】
印象に残る人物はいたか(10点)
(多くても1、2名に限る。それ以上いたら逆効果なので減点)
・4点
余貴美子さん演じる看護師は存在感があったが、後半はスクリーンからほとんど消えてしまう。井川遥さん演じる女医も魅力はあったが、結局は脇役。全て中途半端な感じがした。
印象に残るシーンはあったか(10点)
(多くても1、2シーンに限る。それ以上だと逆効果なので減点)
・8点
主人公の医師が白衣を振るシーン。これは白旗だったと受け止めて評価。
泣けたか(10点)
(ストーリーの流れで泣けた部分はあったか=単に人が死んだとか、物理的な悲しさは評価外)
・8点
娘が母に自分の病院での検診を勧めるシーン。それぞれが真実を察知しながら、遠まわしに心を通じ合わせるところは見所がある。
笑ったか(10点)
(ストーリーの流れで笑った部分はあったか=主人公の仕草とかで笑いを誘った場合は評価外)
・2点
小ネタは多いが、ストーリーの展開の中で笑わせるシーンは少ない。最後のオチとそのオチで映画が終わってしまうところは賛否両論か。
怒りを覚えたか(10点)
(ストーリーの流れで怒りを覚えた部分はあったか)
・0点
この映画は悪人が出ない。目立った対立もない。そのことが中途半端な映画という印象を招いているのかもしれないが、全体のテイストとしては悪くないと思う。
【減点項目】
寝てしまった(-30点)
・-10点
寝ていてさらに減点するのはひどい評価方法と思うが、前半は0回以上はウトウトしてしまった。
基礎点(20)+技術点(20)+芸術点(22)×1.5-減点(10)=CinemaX指数(63)
「E」評価(60~69点)
終わってみれば、前半の退屈さは何だったんだろうと思える映画です。例えば、研修医は反発しつつも主人公の医師の行動を見て、再びこの診療所に舞い戻ることを決意すればいいのに、決意するきっかけを示すようなシーンもないまま「俺、戻ってきます」と突然言ってみたり。無医村の問題、延命治療など興味深く膨らませられそうなタネが多い作品だけに「離島じゃないコトーの話」みたいな映画になってしまったのは極めて残念な気がします。ストーリーそのものは何も解決していないように、食い散らかしっぱなしの映画という印象です。
ちなみに、この映画の核心である、主人公の医師はニセ医者という設定は「鶴瓶話2009」で既に聞いていたのですが、知らないままに観た人はどのような印象を抱くのか興味があるところです。ストーリーでニセ医者と分かるのは中盤です。それまでは怪しいなと思える部分が散りばめられているのですが、テンポが悪くて見逃されがちのような感じがしました。もしかすると最初から観客にニセ医者であることをバラしておいて、医師と観客が葛藤を共有する設定の方が、もっと見応えのある映画になっていたのかもしれません。



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