« May 2009 | Main | July 2009 »

June 12, 2009

ディア・ドクター

監督:西川美和
原作:西川美和
音楽:モアリズム
脚本:西川美和
出演;笑福亭鶴瓶、瑛太、余貴美子、井川遥、香川照之、八千草薫ほか

「カルピス」

西川美和監督作品です。この映画を知ったのは「鶴瓶噺2009」で鶴瓶さん本人がこの映画の話をしたからでした。余貴美子さんなど共演者のエピソードも面白くて、興味のある映画でもありました。不景気の中でハリウッド映画の製作スピードも鈍っているようで、日本ではテレビ局が小遣い稼ぎのように映画を作るようになってしまった今日この頃。、果たしてCinemaXの評価やいかに。

「ディア・ドクター」は、会場の音響が悪いのか、セリフが聞きづらく冒頭から置いてけぼりをくらってしまいました。主人公の医者が行方不明になったのは分かるのですが、どうしてここまでシーンを引っ張る必要があるのかと疑問に感じました。

したがって前半はとにかく睡魔との闘いです。シーンごとの小ネタは面白いのですが、ストーリーをひねったものではなく撮影現場で生まれたアドリブのようなもの。無医村に赴任して3年半の医師のもとに研修医がやってくるという話なのですが、この2人の対立はほとんどありません。研修医は外車を乗り回すボンボンなので「こんなド田舎来たくなかった」と反発すれば面白みもあるはずなのに、演ずる瑛太さんのイメージをそのままにしたように無味無臭。これではせっかくいい演技をしてもキャラクター自体に魅力がないのですから、飼い殺しです。

「ディア・ドクター」は、いい役者を揃えています。この人がいなければ「おくりびと」の魅力が半減したともいわれる余貴美子さん。そして、八千草薫さん、香川照之さん。監督が原作者なのですが、この映画、物凄く不利な点があるのです。

まるで「Dr.コトー診療所」ということです。

診療所には医師と勝気な看護師がいて、MR(たぶん)が時に医師の補助をしながら、設備が乏しい中で処置をする。もちろんそれぞれのキャラクターの職業や年齢設定が違いますが、観客に「Dr.コトー診療所」を連想させた時点で、この映画は負けです。

麦畑?が風に揺れたり、アイスキャンディーがどろっと溶けたり、つなぎのように流れるシーンは確かに面白いのですが、無駄なシーンが多く、シーンの中身も無駄ばかりで、まるで時間稼ぎをしているようでした。ところが、睡魔と闘いながら中盤にたどり着いて、井川遥さん演じる女医があわられると、いきなり面白くなります。

主人公の医者が、患者と結託して医者である娘をあざむこうとする話、医者が隠しきれなくなって、患者に白衣(つまり白旗)を振るシーン。娘が母(患者)の病気を知るシーン。そして、検査を受けて欲しいと遠回りに言うシーン。母が娘の気持ちを察知して受け入れるシーン。この一連のストーリーだけ、やたらと見応えがあります。キムタクと初共演したテレビドラマではわがまま邦題でキムタクが本気で怒っていた井川遥さんですが、この映画ではこれまでのイメージを一新するようなインパクトがありました。

これだけストーリーの密度が偏っているのことを考えると、もしかすると西川監督はこのエピソードだけを書きたくて、後は話を薄めたのかもしれません。まるでカルピスのような映画です。

評価に移ります。一部ネタバレなのでご注意ください。

【基礎点】

一般の邦画(20点)

【技術点】

テーマははっきりしているか(10点)
(一言で説明出来るか/魅力的だったか)
・10点
ニセ医者が無医村で医者のふりをする話。

そのテーマは時代にマッチしているか(10点)
(今の時代に当てはまるような要素があるか)
・4点
無医村、都市に集中する医師、医師が希望する科目が偏るなど現在の医療問題を切り取っているように見えて、実はストーリーがスカスカ。もったいない。

観光要素はあったか(10点)
(何か目新しく感じられる要素はあったか)
・3点
診療所の医師の給料は2000万円。

観光要素は魅力的だったか(10点)
(その観光要素は魅力的なものだったか)
・3点
意外な話ではあったが、ストーリー全体には関係ない。

主人公に貫通行動があるか(10点)
(主人公の目的=欲望がはっきりしているか)
・0点
主人公の医師はタコのようにフラフラしている。つい最近赴任したならともかく、就任して3年半が経過しているとは考えにくい。

【芸術点】

印象に残る人物はいたか(10点)
(多くても1、2名に限る。それ以上いたら逆効果なので減点)
・4点
余貴美子さん演じる看護師は存在感があったが、後半はスクリーンからほとんど消えてしまう。井川遥さん演じる女医も魅力はあったが、結局は脇役。全て中途半端な感じがした。

印象に残るシーンはあったか(10点)
(多くても1、2シーンに限る。それ以上だと逆効果なので減点)
・8点
主人公の医師が白衣を振るシーン。これは白旗だったと受け止めて評価。

泣けたか(10点)
(ストーリーの流れで泣けた部分はあったか=単に人が死んだとか、物理的な悲しさは評価外)
・8点
娘が母に自分の病院での検診を勧めるシーン。それぞれが真実を察知しながら、遠まわしに心を通じ合わせるところは見所がある。

笑ったか(10点)
(ストーリーの流れで笑った部分はあったか=主人公の仕草とかで笑いを誘った場合は評価外)
・2点
小ネタは多いが、ストーリーの展開の中で笑わせるシーンは少ない。最後のオチとそのオチで映画が終わってしまうところは賛否両論か。

怒りを覚えたか(10点)
(ストーリーの流れで怒りを覚えた部分はあったか)
・0点
この映画は悪人が出ない。目立った対立もない。そのことが中途半端な映画という印象を招いているのかもしれないが、全体のテイストとしては悪くないと思う。

【減点項目】

寝てしまった(-30点)
・-10点
寝ていてさらに減点するのはひどい評価方法と思うが、前半は0回以上はウトウトしてしまった。

基礎点(20)+技術点(20)+芸術点(22)×1.5-減点(10)=CinemaX指数(63)

「E」評価(60~69点)

終わってみれば、前半の退屈さは何だったんだろうと思える映画です。例えば、研修医は反発しつつも主人公の医師の行動を見て、再びこの診療所に舞い戻ることを決意すればいいのに、決意するきっかけを示すようなシーンもないまま「俺、戻ってきます」と突然言ってみたり。無医村の問題、延命治療など興味深く膨らませられそうなタネが多い作品だけに「離島じゃないコトーの話」みたいな映画になってしまったのは極めて残念な気がします。ストーリーそのものは何も解決していないように、食い散らかしっぱなしの映画という印象です。

ちなみに、この映画の核心である、主人公の医師はニセ医者という設定は「鶴瓶話2009」で既に聞いていたのですが、知らないままに観た人はどのような印象を抱くのか興味があるところです。ストーリーでニセ医者と分かるのは中盤です。それまでは怪しいなと思える部分が散りばめられているのですが、テンポが悪くて見逃されがちのような感じがしました。もしかすると最初から観客にニセ医者であることをバラしておいて、医師と観客が葛藤を共有する設定の方が、もっと見応えのある映画になっていたのかもしれません。

2009年6月10日/一ツ橋ホール
Deardoctor02

| | Comments (8) | TrackBack (11)

June 08, 2009

ハゲタカ

監督:大友啓史
原作:真山仁
音楽:佐藤直紀
脚本:林宏司
出演:大森南朋、玉山鉄二、栗山千明、高良健吾、遠藤憲一ほか

「機動戦士Zガンダム」

ハゲタカです。NHKが絡んでいるからか、ROOKIESのように露骨な宣伝もないのですが、もとは同名のNHKのテレビドラマがベースになっています。とすると「ハゲタカ」のライバルは封切られてもなおダメ押しのように宣伝が続く青春映画でもトム・ハンクスがローマを駆けずり回るあの映画でも、乳がん健診のPRには大きく貢献したものの、ドキュメンタリーの足元にも及ばなかった感のあるあの映画でもなく、テレビドラマ版「ハゲタカ」なのではないかと思う今日この頃、果たしてCinemaXの評価やいかに。

テレビドラマ版「ハゲタカ」との出会いは衝撃的でした。その日は友人が集っての鍋パーティ。ふとチャンネルを回して目に入った青色がかった映像。一同はあっという間に話しに引き込まれ、胃がキリキリするような緊張感でドラマが終わった時には鍋が煮詰まっていたのでした。同じようなテレビドラマ版が先行して映画化された作品の中には「クライマーズ・ハイ」があるのですが、映画化に当たり身構えてしまうのか、制作費にも差があるはずなのにテレビドラマの足元にも及ばない出来になっていることが少なくありません。

このほか「リング」もNHK版が秀逸で、映画版はオカルトなテイストが話題となり鈴木光司氏をホラー作家で飯を食わせる結果にはなったものの、主人公の性別を変えるなど工夫した割にはテレビドラマ版を超えることが出来なかったのが皮肉です。後の民放のテレビドラマ版は論外ですが。

このほか、離島の高校が甲子園でベスト8に進出するぐらいのインパクトはあった「ネコナデ」は、テレビドラマ版のチープな作りが帰って視聴者が親近感を抱く結果となり、隠れたヒットとなっています。一方でテレビドラマが話題となり映画化に踏み切ったらしい映画版「ネコナデ」は、キャストが豪華になった割には「堅物サラリーマンが野良猫をかくまいながら丸くなる」というポイントがボケてしまい、最悪の作品になりました。

話を映画版「ハゲタカ」に戻します。

映画版「ハゲタカ」は、出来る限りテレビドラマを観ていないと、分からない部分が多いかもしれません。そのことを説明するようなお人良しな映画ではないので。それでもこの作品の不思議なところは、分かったような感じになってしまうことです。それは、トヨタの規模とホンダの野心と日産のデザイン性を足したようなアカマ自動車が題材になっているからかもしれません。日本の基幹産業の1つである自動車産業は、日本そのものなのですから、その企業を狙う赤いハゲタカから守る…リーマンショック前、つまり去年の今ごろならよりリアリティのある映画として話題になっていたかもしれません。

折りしも、株価や原油価格が上がり始めました。投機資金の再び流入しはじめたことによるものという見方もありますが、「ハゲタカ」でも触れられていたように、国家が民間企業の顔をして参入すれば、潤沢な資金で市場をどうにでも動かせるという出来レースが可能になります。例えば原油価格の上昇による現金収入を狙うため、産油国が第三国や民間企業を迂回して投機資金を流入させても尻尾を掴むことは極めて困難といえます。

昨年7月以降、原油価格が急落したのは、米国商品先物取引委員会というところが「原油先物取引で変なことをしていないか監視するぞ」と睨みを利かせたからでした。こりゃヤバいと投資家が手を引いたため、プレイヤーが減り、原油価格は急落するのですが、それはヤバい国や人をバックに暗躍していた投資家が多かったということにもなります。国内でも経済紙の社員や記者、銀行員などがインサイダー取引をするぐらいですから、100%クリーンな市場は夢のまた夢ということになります。

また話が脱線してしまいました。

テレビドラマ版では、元銀行員の芝野とハゲタカこと鷲津の対立が大きなポイントでした。ところが対立したままでエンディングを迎えるわけにはいかず、多くのテレビドラマと同様にそれなりに融和してシリーズは終了しました。映画を作りにあたり、ポイントは対立軸です。例えば、踊る大捜査線はもともと青島と室井の対立軸がありましたが、最後は融和します。映画で再び対立させるのは馴染まないので、青島と室井の対立軸として新城を登場させ、2作目では同じような対立軸として女性キャリア、沖田を登場させます。

これはストーリー展開で隠されてしまいがちですが、段々と対立軸が薄まっていることが分かります。

例えば、「機動戦士ガンダム」は、ロボットアニメで初めてと言っていいほどやたら登場人物の心情を描き続けられたのは何故か、視聴者が複雑な心情にのめりこむことが出来たのは何故か…それは、連邦軍対ジオン軍という、わかりやすい対立軸があったからです。ただし、アムロとシャアがどこかで心を通じ合わせるように、いわゆるファーストガンダムも打ち切り同然なのですが、それなりの融和でエンディングを迎えます。

その後、機動戦士Zガンダム、機動戦士ガンダムZZでは敵味方が入り乱れて対立軸が段々と増えていき、視聴者は登場人物の心情を追いかける余裕がなくなります。ガンダムシリーズは近年も高い人気を誇りますが、ファーストガンダムだけ突出しているのは、対立軸がシンプルであったことの一言に尽きるでしょう。

前置きが長くなりましたが、映画版「ハゲタカ」は対立軸がブレてしまっています。芝山と鷲津の対立はなく、鷲津と赤いハゲタカ、劉の対立軸もはっきりとはしない。TOB価格の引き上げ合戦が見応えがあるようで緊迫感がないのは、対立軸がはっきりとしていないからといえるでしょう。加えて原作にあるのかは分かりませんが、派遣切りのエピソードを無理に入れたことでストーリーが崩れてしまいました。

テレビドラマ版の導入部は、貸しはがしでした。身近にあるであろう出来事から壮大な企業買収にまで話が発展していくため、ややこしい話でも視聴者はついていくことが出来るわけです。ところが映画版では売上高5兆円の雲の上の大企業からスタート。これではなかなか感情移入をすることが出来ません。劉が派遣社員とタバコを吸いながら身分の差を語るところ、脇役になってしまった東洋テレビ記者、三島の過去など一般人に身近に感じることが出来るエピソードのほうがカタルシスがあるのでしょう。

映画版では、この身近な視点を丁寧に引き出すと見応えのある映画になっていたのかもしれません。例えば、劉の素性と貧しい生活を経験した故に、高給取りになってもつい出てしまう行動などは興味があります。せっかく面白いタネがあるのですから、ここを丁寧に伸ばせばもっと面白い映画になったはずです。例えば赤い車の落書きなどは、途中で見せる意味は全くない。最後にパッと見せることで、劉はハゲタカになりきっていなかったのだなと分かるわけです。ところがこれをセリフで説明してしまう。本当にもったいない映画です。

【基礎点】

一般の邦画(20点)
・20点

【技術点】

テーマははっきりしているか(10点)
(一言で説明出来るか/魅力的だったか)
・7点
中国が日本そのものともいえる大企業を買収しようとする話。

そのテーマは時代にマッチしているか(10点)
(今の時代に当てはまるような要素があるか)
・3点
1年前なら8点ぐらい。例えば「デイトレーダーで2億円の資産を蓄えた主婦がいる」と言われても嘘臭く聞こえるような現在では、封切りのタイミングは良くない。

観光要素はあったか(10点)
(何か目新しく感じられる要素はあったか)
・2点
企業買収合戦は目新しくなく、むしろ国家が絡む、あるいは国家そのものが企業に投資する流れが本当にあることを描くと面白いのかもしれない。中国の話は噂、中東の話は実話。でもこれも観光要素としては乏しい。

観光要素は魅力的だったか(10点)
(その観光要素は魅力的なものだったか)
・2点
雲の上の話は観光要素にならないことを知った。

主人公に貫通行動があるか(10点)
(主人公の目的=欲望がはっきりしているか)
・4点
鷲津、劉ともに企業買収に走るが…鷲津は主人公としては存在が薄く、劉は軽過ぎる。芝山は脇役。結局全部中途半端。

【芸術点】

印象に残る人物はいたか(10点)
(多くても1、2名に限る。それ以上いたら逆効果なので減点)
・5点
劉。中国から日本に来るエピソードがもっと欲しかった。赤いハゲタカになりきれなかったことがわかる断片がもっと早い段階で欲しかった。

印象に残るシーンはあったか(10点)
(多くても1、2シーンに限る。それ以上だと逆効果なので減点)
・10点
冒頭のシーン。貧富の差を一発で描く冒頭のシーンは、戦艦ポチョムキンを髣髴とさせるインパクトがあった。

泣けたか(10点)
(ストーリーの流れで泣けた部分はあったか=単に人が死んだとか、物理的な悲しさは評価外)
・0点
赤い車の壁画は、途中で見せる必要はなかった。、劉が赤いハゲタカになりきっていないことが、視聴者が後になって「ああ」と分かるようなシーンを散りばめていれば、エンディングに一発この絵を見せると感動出来たはず。

笑ったか(10点)
(ストーリーの流れで笑った部分はあったか=主人公の仕草とかで笑いを誘った場合は評価外)
・0点
笑ったような記憶があるようで…ない。

怒りを覚えたか(10点)
(ストーリーの流れで怒りを覚えた部分はあったか)
・0点
鷲津が「この国は何も変わらない。バカな国民が政治家の行動をヘラヘラ笑ってみているだけ」というようなセリフは全くその通りで腹立たしさを感じた。確かにこの10年間だけでもみても規制緩和、自由化といっても何も変わっていない現実。小泉改革の中身も知らず自民党に投票した連中が増税で生活が苦しくなったと不満を言う現実。ただしストーリーの流れでの怒りではないので、CinemaXの評価外。

【減点項目】
・減点なし。

基礎点(20)+技術点(18)+芸術点(13)×1.5-減点(0)=CinemaX指数(61)

「E」評価(60~69点)

テレビドラマ版に引き続き演技派の役者揃いですが、玉山鉄二も埋没することなく頑張っていました。大森南朋はこれから先ずっと楽しみな俳優です。

2009年6月7日/シネプレックス新座
333057view002

| | Comments (2) | TrackBack (1)

« May 2009 | Main | July 2009 »