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March 08, 2009

チェンジリング

アカデミー賞ノミネート作品「チェンジリング」です。実話を扱った作品は、実話負けしてしまうことが多いだけに、作品の完成度が注目されます。果たしてCinemaXの評価やいかに。

「日本人にちょうどいい」

冒頭にも述べたとおり、実話を取り上げた作品は数多くあります。「アポロ13」「エリン・ブロコビッチ」「クイズ・ショウ」「パッチ・アダムス」など挙げればきりがないのですが、割と知られたエピソードを取り上げているという共通点があります。最近の邦画では「旭山動物園物語 ペンギンが空を飛ぶ」や少し脚色を加えていますが「クライマーズ・ハイ」などが挙げられますが、これも知られたエピソードを取り扱っています。

実話をもとにした映画は、実話負けしてしまうことが多いように思います。実話が面白いから映画も面白いと短絡的に考えるのは、周りから作品を批判されると「これは実話だから面白いんです」と言うシナリオ教室の生徒と同じです。

事実は小説より奇なりと言うように、人間の想像力は限られています。その想像を超えた実話を題材にするわけですから、あとは人間の想像力でしっかり構成を考えなければなりません。ところがこの部分をサボってひたすら実話だけを垂れ流し続けたり、明らかに作り話だろうと分かるエピソードを加えた、木に竹を継ぐような脚色をするケースも見られます。

あとは、時代にマッチしているかどうか。例えば、旭山動物園ネタは既にテレビドラマやドキュメンタリーで何度も目にしているので何を今さらということにもなりますし、クライマーズ・ハイは、数年前にNHKが製作したドラマが秀逸なので、あのドラマを観た人間にとっては、何を今さらという感じになってしまう訳です。

チェンジリングのエピソードは、米国内のどこかの役所に眠っていた資料から発掘したらしく、誰にも知られていないエピソードということになります。どこまでが実話でどこからが脚色かは分かりませんが、子供のすり替え事件と当時のロサンゼルス市長と警察幹部の癒着と腐敗ぶりを絡めてしっかりと人物を描いています。

事実というのは、リアルな話ですから何よりも説得力があり、実話の周囲に嘘を塗り固めていくとしっかりとしたリアリティが生まれます。チェンジリングは、このリアリティという部分で高い完成度を誇っていると言えます。決して実話負けしていない作品です。

監督は、クリント・イーストウッドです。晩年の黒澤明監督を前にして、直立不動で顔を真っ赤にして少年のように話を聞いていた彼は、俳優と監督を兼ねる形で数多くの作品を生み出してきましたが、ここ数年は鬼気迫るものが感じられます。クリント・グレーとも呼ぶべき暗いトーンの映像は、彼の作品のトレードマークとも言えるでしょう。

4月に公開予定のグラン・トリノのように、クリント・イーストウッドは自分に合った配役があれば主演も兼ねるようですが、たとえ出演が叶わぬようになっても、監督として1作でも多く作品を残して欲しいように思います。人生において現在進行中(つまり生存しなおかつ活躍している)の偉人を目にすることはなかなかないと思うのですが、クリント・イーストウッドはその1人となり得る人物と言えるでしょう。

チェンジリングは、すりかえられてしまった子供の行方を捜す主人公の行動がもとで凶悪事件が発覚し、腐敗していたロサンゼルス市役所と市警の浄化が進んでいきます。主人公は、女性のくせにでしゃばるなという偏見に耐えながら、官憲に対して、自分たちに歯向かう人間を安易に精神病院に放り込むなど人権無視の捜査方法の改善などを勝ち取ります。その要請が子供を捜索する中での間接的ともいえる裁判であること、社会が近代化に向かう中で必要不可欠…つまり人間生活の身の丈に合った権利を勝ち取ったということで、多くの人の共感を呼ぶはずです。

女性が訴訟を起こしたエピソードを取り扱った映画には「エリン・ブロコビッチ」があるのですが、主人公はもともと相手に責任がある交通事故の訴訟で金を取れずやけくそになって以降、必死に訴訟のタネを探し、訴訟をスタイルのようにしていたという点で日本人にはなかなか受け入れられない内容になっていたような気がします。

この女性の行動は、後に史上最大の賠償を勝ち取り、企業の公害に対する危機意識を生み出すきっかけになった歴史上重要な人物といえるにせよ、控えめな日本人の心理には「そこまでやらなくても」というひっかかりが残ることでしょう。チェンジリングは、良くも悪くも日本人にちょうどいい設定であったといえるでしょう。

評価に移ります。

【基礎点】

一般の洋画(15点)
・15点

【技術点】

テーマははっきりしているか(10点)
(一言で説明出来るか/魅力的だったか)
・9点
官憲に息子をすりかえられた母親が真相を追及する話。

そのテーマは時代にマッチしているか(10点)
(今の時代に当てはまるような要素があるか)
・9点
家族が北朝鮮にいるのが分かっていながら国益と天秤にかけて動かない政府と当てはまる部分はある。

観光要素はあったか(10点)
(何か目新しく感じられる要素はあったか)
・7点
訴訟国家と呼ばれ、警察機能が発達しているアメリカでさえ、つい80年前までは汚職まみれだったという事実。

観光要素は魅力的だったか(10点)
(その観光要素は魅力的なものだったか)
・7点
主人公の行動に影響されて、社会が浄化された。その変化にカタルシスがある。

主人公に貫通行動があるか(10点)
(主人公の目的=欲望がはっきりしているか)
・10点
主人公は周囲の忠告や圧力に屈服することなく我が子を探し続けている。

【芸術点】

印象に残る人物はいたか(10点)
(多くても1、2名に限る。それ以上いたら逆効果なので減点)
・8点
主人公。周囲のキャラクターは引き立て役なのか、特に主人公の周囲のキャラクターは驚くほど味気ない設定になっている。上司に逆らって捜査を行う刑事は、脇役中の脇役だが、世の中捨てたもんじゃないという光を差す存在として印象に残った。

印象に残るシーンはあったか(10点)
(多くても1、2シーンに限る。それ以上だと逆効果なので減点)
・7点
弁護士が法廷で激怒するシーン。これも脇役中の脇役だが、同じように警察の怠慢で娘を失っていて、そのエピソードを事前にサッとまいているので「あなた方(警察)が(ろくに捜査もせず)時間を無駄にしたから、こんなことになった」というようなセリフを吐いて激怒するのは説得力があり、印象に残った。

泣けたか(10点)
(ストーリーの流れで泣けた部分はあったか=単に人が死んだとか、物理的な悲しさは評価外)
・8点
ネタばれになるが、後に発見されたほかの子供の証言で、主人公の息子が優しさを見せたばかりに命を落としたのかもしれないと分かるシーン。巧みな「あーあ」感は、観客を作品の中に引き込む重要なエッセンスになる。

笑ったか(10点)
(ストーリーの流れで笑った部分はあったか=主人公の仕草とかで笑いを誘った場合は評価外)
・3点
笑えるシーンはほとんどなく、逆に緊張感で常に身体に力が入る。

怒りを覚えたか(10点)
(ストーリーの流れで怒りを覚えた部分はあったか)
・8点
地位にしがみつき自分に不必要なことはしない、トップは自分に責任が降りかからないように常に誰かのせいにして問題を有耶無耶にしようとする。それらの問題が発生する原因も自分たちの怠慢が原因だというのに。

【減点項目】

筋違いのPRが行われている(-10点)
・0点
結末を話すと面白さが半減する映画といえるので、それを覆い隠すPRをしなければならない。予告編しか観ていない方は、その部分は単に序章だと把握する必要があると思う。減点ゼロ。

基礎点(15)+技術点(42)+芸術点(34)×1.5-減点(0)=CinemaX指数(123)

「A」評価(120点以上)

補足ですが、主人公は電話会社で電話交換士のマネージャーのような仕事をやっているのですが、交換台にずらりと並ぶ交換士の抱えたトラブルを次々に解決していく仕事に不可欠なアイテムは、何とローラースケートでした。移動距離しやすいという利点があるのでしょうが、オンとオフがごっちゃになったようなアイテムを使っていたというエピソードは、直接ストーリーとは関係ないにせよ観光要素として大きな魅力があります。

当時のハイカラ?な衣装とともに、アンジェリーナ・ジョリーがローラースケートで颯爽と交換台の後ろを滑るシーンは、アメリカらしさを一瞬にして示すまさに「つかみ」のシーンと言えるでしょう。

2009年2月28日/ワーナーマイカルシネマズ板橋
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Comments

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