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February 15, 2009

誰も守ってくれない

製作:亀山千広
制作統括:杉田成道、島谷龍成
監督:君塚良一
音楽:村松崇継
脚本:君塚良一、鈴木智
出演:佐藤浩市、志田未来、松田龍平、石田ゆり子、佐々木蔵之介ほか

「半生のポークソテー」

「誰も守ってくれない」です。踊る大捜査線のスタッフとシリーズの脚本を務めた君塚良一氏がメガホンを取った作品です。

この映画の肝は、警察が加害者家族を守るということ。警察側は公には存在を認めていない仕事のようですが、かねてからマスコミが被害者家族の報道に偏ってきた(大マスコミは記者クラブが垂れ流す情報をそのまま報じるだけなので)流れから、警察側は何らかの方法で加害者の家族を守ってきたことは容易に想像できます。今回はその仕事に従事する刑事役に佐藤浩市と松田龍平を起用しました。

加害者の妹には、テレビドラマ「14才の母」のイメージが強く、どちらかといえば影を背負ったような役が続いていると錯覚させる志田未来です。マイナスイメージから出発した女優ですが、目力が鋭く若くして存在感ある大人の女性の雰囲気を漂わせるようになりました。

マイナスイメージから出発した女優といえば、「君の名は」のリメイクが大コケして数年間、役柄とともに低視聴率という暗いイメージが染み付いてしまった鈴木杏香がいますが、志田未来は彼女に匹敵する女優になる可能性を秘めているといえます。

さて、加害者家族を守るということは、罪を憎んで人を憎まずという考えに似ています。罪を憎んで…というのは、犯人に対しての考え方ですが、当事者に対してこのような考え方があるのですから、加害者家族に対してはなおさらといえます。ですが、そうと分かっていても、凶悪事件が発生すると、親の教育はどうだったのかとか、周囲の人々はいろいろと問い詰めながら、加害者家族も連座で責任を取らせようとする感情を抱くのも事実です。

この作品では、加害者家族を守る刑事を通じて垣間見ることが出来る様々な問題を「最初は」描こうとしたのかもしれませんが、次第にストーリーがぐちゃぐちゃになっていきます。特に主役の2人がペンションに移動して以降は、棒読みのようなひどいセリフが飛び交い、冒頭でせっかく移入した感情が冷めきってしまいます。

それでもこの作品は、いくつかの問題を投げかけています。税金(警察)で加害者家族を守ることを認めていいものか否か、そして、事件を裁こうとするその他大勢の人々の行動。特に後者は、例えば秋葉原連続殺傷事件でケータイのカメラを向ける人々のモラルが問題になりましたが、インターネットを介して1億総評論家、あるいは1億総マスコミとなる中で、これらの人々にどう対処するかを投げかけようとしています。

ただし、この作品ではこれらの問題を投げかけても拾うわけでなく、どれも生煮えに終わった感もあります。記者クラブだけが独占して、警察が垂れ流す情報をそのまま書き写してきた大マスコミ報道に対して、行き過ぎはあるにしろインターネットを介してスピードと真実を追い求めようとする人々に対する見解についても何も示していません。これでは映画として何の意味もありません。

例えば、一方通行の路地をウロウロするような大マスコミの報道には限界があり、ハイウェイを暴走するインターネット社会に対して歯が立たないことも多くなりました。問題なのは、その暴走をコントロールする存在がないからで、大マスコミもそれを「暴走」とだけ判断して、誤った方向に暴走しても欲しい情報だけ取り出して黙殺することにあります。

残念ながらこの事件を中途半端にしか追いかけなかった佐々木蔵之介が演じる新聞記者は、最後に「ボールをキープしていたのは俺だよな?いつのまにか坂道になって、転がり始めたボールは誰にも止められなかった」というようなセリフを吐きます。このキャラクターにそう言わせたいのだったら、少なくとも観客にそう思わせるストーリー展開にしなければ、製作側の苦し紛れの言い訳にしか聞こえなくなります。

例えば、刑事と新聞記者が見えない大勢の相手に対して共闘するようなエピソードを盛り込むと、この作品はぐっと厚みを増すと思うのですが。

「誰も守ってくれない」では、インターネットを介した大勢の人間による「裁き」もストーリーに織り込まれています。折りしもスマイリーキクチの一件が重なり天下のNHKでさえも炎上という単語を使い始めましたが、立件された人々はその時の勢いで行動した部分も多いはずです。集団心理では、大災害などに遭遇した人々が一度暴走すると食い止められなくなるということを教えられますが、インターネット上では、実際の行動は伴わないまでも大規模な暴走が発生することが多いと言って過言ではないでしょう。

終盤、あれだけ加熱していたネット上の人々の「裁き」は、あっさり別の事件に向かいます。株取引や先物取引にも似たバーチャルなものに対する人々の行動を上手く描いているといえます。「情報を知る人間が崇拝される」ということも上手く表現されているのですが、残念ですが、インターネット上の体感スピードを、映画やドラマで表現するような手法はまだ発見されていません。

事実、インターネットのスピード感や恐ろしさを描こうとした作品のほとんどは、キーボードを打つシーンなどに終始してしまい、かえってストーリー展開が停滞してしまうというジレンマに陥っています。

【基礎点】

一般の邦画(20点)
・20点

【技術点】

テーマははっきりしているか(10点)
(一言で説明出来るか/魅力的だったか)
・9点
加害者家族を守らなければならない刑事の話。

そのテーマは時代にマッチしているか(10点)
(今の時代に当てはまるような要素があるか)
・9点
今の世の中だからこそ生まれたといえる仕事。

観光要素はあったか(10点)
(何か目新しく感じられる要素はあったか)
・9点
警察が加害者家族をを守るということは、警察は公には存在を認めていないが、存在するに疑いの余地のない話。

観光要素は魅力的だったか(10点)
(その観光要素は魅力的なものだったか)
・9点
もっと知りたい仕事でもある。

主人公に貫通行動があるか(10点)
(主人公の目的=欲望がはっきりしているか)
・7点
刑事は加害者家族を守ろうとするが、多少ブレたのが残念。

【芸術点】

印象に残る人物はいたか(10点)
(多くても1、2名に限る。それ以上いたら逆効果なので減点)
・7点
主役の2人(刑事と加害者の妹)は存在感はあったが、途中でブレるのが残念だった。

印象に残るシーンはあったか(10点)
(多くても1、2シーンに限る。それ以上だと逆効果なので減点)
・10点
裁判所、市役所の職員がやってきて加害者家族の苗字を変える方法は興味深い。

泣けたか(10点)
(ストーリーの流れで泣けた部分はあったか=単に人が死んだとか、物理的な悲しさは評価外)
・0点
ストーリーの割には感情を揺さぶられることはなかった。

笑ったか(10点)
(ストーリーの流れで笑った部分はあったか=主人公の仕草とかで笑いを誘った場合は評価外)
・0点
主役などが時折吐くセリフ「背筋が凍るな」は、結局、本編が進んでも観客の心が受け入れる言葉にはならなかった。

怒りを覚えたか(10点)
(ストーリーの流れで怒りを覚えた部分はあったか)
・3点
加害者、被害者どちらかにも肩入れする話ではないため、怒りを感じる部分は少なかった。

【減点項目】

筋違いのPRが行われている(-10点)
・-2点
この作品は予告が秀逸であり、ほんの数分間で観客の心を揺さぶっていた。予告は本編とは関係ないようなPRではないが、完全に本編が負けているので敢えて減点。

基礎点(20)+技術点(43)+芸術点(20)×1.5-減点(2)=CinemaX指数(91)

『C』評価(80~99点)

脇役にも良い役者を揃えていますが、上手く料理が出来ていないように思えます。特にセリフ。冒頭の数分間は、恐らく凡庸な監督から20分ぐらいかけてタラタラと説明するところでしょうが、スパッと一刀両断にしています。それだけの素晴らしいテンポでスタートしたのに、中盤のペンション以降はだらだら牛歩のような展開になってしまいます。

この作品は、2人の脚本家が絡んでいます。プロデューサーが複数の脚本家が持ち寄った内容を吟味してまとめていく方法は、ハリウッドや全盛時の黒澤映画にも採用されていますが、「誰も守ってくれない」に関しては、きちんと吟味が行われていないのか、性格の違う2人の脚本家のつなぎ目が見えてしまう雑な内容になっているように思えてなりません。

この作品には、声が高くて少女と間違えてしまいそうな冨浦智嗣を起用していますが、これが物凄く違和感を感じます。演じるキャラクターそのものが中性的な役柄ならともかく、そんなこともありません。本編中のこんなところに爆弾を仕掛ける理由はどこにもないわけで、甲高い声と少年の青臭さは微塵も感じられない風貌に引っ掛かりを感じながら映画を観なければならない自分に怒りすら感じてしまいます。

中性的なキャラクターが流行っていますが、中性とはいえど男か女か、どちらかにブレいていることで人々は安心するのだと思います。かつて中性的な俳優の代名詞だった藤原竜也もそう。彼は男臭い部分を見せるからこそ、中性的な魅力を発揮するのだと思います。逆にあまりにも中性的だと生身の人間に思えず気持ち悪さすら感じてしまいます。

中性的な男性に魅力を感じているのは当事者(芸能界の人々)だけなのかもしれません。逆に言えば、希少価値が高い存在ともいえるので、冨浦智嗣を起用するなら、こんな脇役で普通の少年を無理して演じさせるのではなく、主役として思う存分、演じさせたほうがいいと思います。

「誰も守ってくれない」は、題材がいくら素晴らしくても、料理次第でぶちこわしになる、半生のポークソテーのような映画でした。

2009年2月14日:シネプレックス新座
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Comments

はじめまして。
この作品の「半生のポークソテー」という表現に感動です。

題材にも興味がありましたし、オープニング~離婚操作辺りまでの集中から一転。
急激に「?」ばかりが頭をよぎったモヤモヤした気分を言い表していただきました。

他の作品のコメントも拝読しましたが、
「そうそう」と深くうなづきながらの時間を過ごす事ができました。また、伺います。

有難うございました。

Posted by: LENNON | July 08, 2010 at 01:28 PM

お返事が遅くなりました。

CinemaXは映画の解説というより、鑑賞した方々と感想を共有したいということを主眼に設けたサイトなので、LENNONさんのコメントは励みになります。今後ともお気軽にお立ち寄り下さい。

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