少年メリケンサック
監督:宮藤官九郎
音楽:向井秀徳
脚本:宮藤官九郎
出演:宮崎あおい、佐藤浩市、木村祐一、勝地涼、田口トモロヲほか
「面白くなくしたのは誰か」
少年メリケンサック(SMS)です。主演は宮崎あおい。篤姫の放送終了に合わせたかのように、街のあちこちで見かけるようになったパンクなポスターは衝撃ともいえます。監督・脚本の宮藤官九郎は、宮崎あおいが可愛いからとダメもとで出演交渉をしたところ、意外にも快諾されたようです。
宮崎あおい本人は宮藤官九郎のファンということもあったのでしょうが、本人や事務所は決して安売りをしないというスタンスなので、得るものがあると感じて出演したのでしょう。その意気込みは演技の随所にみられます。
さて、ストーリーですが、いろんな話が詰め込まれているはずなのに、シーンやセリフのテンポが良くて頭の中にスイスイ入ってくるのは、宮藤官九郎の天才たる所以なのかもしれません。
youtubeやニコニコ動画などのインターネット上の動画サイトというのは、宝箱であり、過去の映像が飛び出してくるタイムマシンともいえます。目当ての動画に遭遇した時の「あっ!」感を間接的にかんな(宮崎あおい)は表現しています。
また、パンクという、一部の人にはどストレートに身体の中に入ってきた音楽に対して、全く興味のないかんな。彼女はそれでいて、何となくその音楽に引き込まれ、ディレクターとして少年メリケンサックのメンバーの母親的存在になっていきます。「好きです!パンク!嘘です!」はなかなかいいセリフです。
多くの視聴者にとって叫んでいるだけと感じるパンクを扱っているので、このかんなの視点は違和感なく受け入れられます。恐らくこの女性がパンク好きという設定だったら、この作品はただのドタバタ映画として一瞬、注目されるだけで終わったことでしょう。
このバランス感覚こそが、宮藤官九郎が天才といわれる所以なのかもしれません。
アキオ(佐藤浩市)の壊れ具合も見ものですが、何といってもポイントはジミー(田口トモロヲ)です。最近はプロジェクトXをはじめナレーターとして活動する田口トモロヲがボーカルを務めるのですが、このキャラクターは、25年前のSMS解散コンサートでの事故の後遺症で今は車椅子に乗り、言語障害という設定です。
並みの作り手なら、この設定で尻込みして、他の方法を考えるかもしれませんが、これではSMSが歌う「ニューヨークマラソン」というメチャメチャな歌のオチがなくなってしまいます。
思えば、一昔前はこうした批判を浴びそうな設定やセリフを多用した映画はごろごろあったわけで、それが娯楽として当然のようにまかり通っていました。それが今ではあらゆるものが後ろ向きになっています。決して差別や偏見を助長するのは問題ですが、最近は何か不具合が起きた時の言い訳として用意しているかのように、番組テロップから身近に手にする商品まで、手取り足取り注意書きが施されるのは行き過ぎだと思うのですが。
最近特に気になるのは、テレビで通行人にまで丁寧にボカしを入れるのが主流になりつつあるということです。ちょうどテレビ朝日が50周年を振り返って番組を放映していると、当時の人々の顔、しかも通行人にまでモザイクがかかっていましたが、これは本当に意味があるのでしょうか。
一方でBS放送20周年のNHKは通行人の顔はそのままだったように、対応はテレビ局によってバラバラ。同じ局内でも番組によってモザイクがあったりなかったり。出演者がちょっとでも個人的な意見を述べると「意見は個人によって差があります」と過剰反応。もううんざりです。
SMSのジミーの設定は、方々から抗議を受けているかもしれませんが、差別を助長するのと、過度に神経質になって面白さを削るのは全く意味合いが違います。全くかかわりをもたずシャットアウトすることが差別や偏見をなくすことではありません。きちんと波紋を起こし、議論を呼ぶことでこうした問題は解決していくのだと思います。
テロップや注意書きばかりでテレビを面白くなくしたのは、批判に対して臆病になった作り手ですが、彼らを萎縮させ、無難な番組を求め、容認している我々にも責任はあるのかもしれません。その結果、作り手は無味無臭で無難なものを好む視聴者をそこそこに楽しませるため、金と手間のかからないバラエティ番組ばかりを提供するようになったのかもしれません。
それはパンクなど異端の音楽が下火になっていったのと似ています。それらを面白くなくしたのは、私たちでもあるのです。そういう意味では、ジミーの設定、そしてSMSは、こうした萎縮の流れに一石を投じるものだといえるでしょう。
【基礎点】
一般の邦画(20点)
【技術点】
テーマははっきりしているか(10点)
(一言で説明出来るか/魅力的だったか)
・8点
25年前のバンドがインターネット上の動画をきっかけに再結成される話。
そのテーマは時代にマッチしているか(10点)
(今の時代に当てはまるような要素があるか)
・10点
youtubeやニコニコ動画で思いがけず懐かしい映像に出会うことはある。そういう映像に出会った時の「あっ!」を巧みに題材として取り入れている。
観光要素はあったか(10点)
(何か目新しく感じられる要素はあったか)
・8点
パンクという異文化。私は個人的にはよく分からないジャンルだが、作品を通してそれにこだわる人々の熱意は伝わってくる。ということは、この映画そのものに実力があるということ。
観光要素は魅力的だったか(10点)
(その観光要素は魅力的なものだったか)
・8点
何故パンクやへヴィメタルなどのジャンルの音楽は日本に突然変異のように現れて、下火になったか。プロデュースする側や作り手への批判も込められているよう。
主人公に貫通行動があるか(10点)
(主人公の目的=欲望がはっきりしているか)
・8点
主人公をかんな(宮崎あおい)とするならば、最初から貫通行動は存在しないが、次第に魅力を感じるようになる。バンドをコーディネートするディレクターが母親のような感じというのは、伝わってくる。
【芸術点】
印象に残る人物はいたか(10点)
(多くても1、2名に限る。それ以上いたら逆効果なので減点)
・9点
主人公のかんな。常に視聴者の視点で感情移入が出来た。
印象に残るシーンはあったか(10点)
(多くても1、2シーンに限る。それ以上だと逆効果なので減点)
・9点
アキオ(佐藤浩市)の「面白くなくしたのは誰だ」「だからやってる音楽も無臭になるんだ」と言う2つのシーンは、この映画のテーマのように思う。
泣けたか(10点)
(ストーリーの流れで泣けた部分はあったか=単に人が死んだとか、物理的な悲しさは評価外)
・7点
かんなが広島に戻るシーン。かんなが「無臭音楽」彼氏、マサル(勝地涼)の元を去るときに「行かないでー」という歌をかぶせるのは、米国のドラマの手法に共通する。
笑ったか(10点)
(ストーリーの流れで笑った部分はあったか=主人公の仕草とかで笑いを誘った場合は評価外)
・8点
アキオとハルオ(木村祐一)の二人羽織のようなギター演奏は、ちゃんと伏線がある。冒頭、若き日のSMSのニューヨークマラソンは録音が悪い(という設定の)せいか歌詞が聴き取りづらい。ジミーも言語障害で最初は聴き取りづらいが、これも最後はオチがある。
怒りを覚えたか(10点)
(ストーリーの流れで怒りを覚えた部分はあったか)
・1点
マサルの優柔不断さに腹が立つが、後のシーンできちんと昇華しているので怒りにはならない。怒りの要素が少ない映画。
【減点項目】
・減点なし。
基礎点(20)+技術点(42)+芸術点(34)×1.5-減点=CinemaX指数(113)
「B」評価(100~119点)
体感は「C」ぐらいなのですが、点数の積み重ねで思いがけず評価が高くなってしまいました。見かけ以上に実力のある作品といえます。
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Comments
Really no matter if someone doesn't understand then its up to other viewers that they will help, so here it happens.
Posted by: Best Dating Sites | January 19, 2015 01:12 PM
Awesome post.
Posted by: tai game clash of clans cho dien thoai | October 12, 2015 03:22 AM