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January 28, 2009

ミラーズ

監督:アレクサンドル・アジャ
製作総指揮:アーノン・ミルチャン、キーファー・サザーランドほか
音楽:ハビエル・ナバレテ
脚本:アレクサンドル・アジャ、グレゴリー・ルヴァスール
出演:キーファー・サザーランド、ポーラ・パットン、エイミー・スマートほか

「洗髪が怖くなる」

ミラーズです。
ホラー映画のジャンルになるのでしょうが、ホラー映画の一番難しいのは、オチです。ウソばかり並べても、単にお化け屋敷のような映画になるだけ。ホラー映画の中には、観客を怖がらせるのではなくて、驚かすだけのものも多いのですが、そうした映画はその瞬間は話題になっても、ゆくゆくは忘れ去られてしまいます。

SFだろうがホラーだろうが、どんな架空の話でも、名作と呼ばれる映画は必ず現在との接点があります。「ああ、あるかもな」と思わせるリアリティを産み出す要素がないと、観客の心は離れていってしまいますから、ホラー映画にも霊現象でもいいので理由が必要なわけです。ただし、怨念でも何でも、それを抱くまでの過程には必ず理由がありますから、そこもしっかりと設定する必要もあるのですが。

ミラーズでは、鏡での霊現象を取り扱っています。キーファー・サザーランド演じる心に傷を負った主人公は、廃墟となったデパートの鏡に注目する。そこには霊の気配…手形がペタペタついていくのは、小説「墓を見下ろす家」(小池真理子)を思い出させます。事実、鏡はもともとこの世には存在せず、人間が作り出した最初の人工物と言ってもいいものであり、古代では珍重されてきました。

そのせいか、鏡を割ってはいけないとか、合わせ鏡をしてはいけないという考え方が今でも残っています。僕の実家は理髪店で鏡だらけなのですが、夜中の店内はラップ現象が物凄かったりします。気温差で柱や壁が軋んでいるという見方もありますが、音の大きさや頻度はやはり尋常ではありません。

ちなみにストーリーに重要な要素として、核となる真実(あるいは真実っぽいエピソード)とそれをとりまくウソが挙げられます。真実が多すぎても結局は実話負けしてしまいますし、ウソばかりだと観客がついてこない。例えば、リングの作者である鈴木光司が、ファンタジー小説を書いても当たらないので結局、リングのスピンオフ作品を乱発しまくっている割に面白くないのは、リングの時にはしっかりと存在していた、真実や真実っぽいものを置き去りにして綺麗なウソばかり並べようとするからです。

逆にリングが面白いのは、真実を織り交ぜているからです。貞子さんのエピソードは元をたどれば実話ですから、あとがぐちゃぐちゃでも核がしっかりしているのでストーリーは成立します。劇場版では、監督の暴挙で登場人物がちょっとした超能力者というメチャクチャな設定になっていたのですが、それでも映画として成立していました。一方でらせん以降のストーリーは核がないのでグチャグチャです。

ミラーズの核は、「統合失調症」です。登場する女性の統合失調症の原因が霊だったという設定。ネタばれになりますが、この症状は、この世と鏡の向こうの世界の両方に感受性を持つ、特殊な能力によるものという設定になっているようです。ちなみに知能に障害のある方や精神病の患者さんは、こちらの人間の立場から見てイレギュラーなのであって、当の本人は全く違うことを感じていると考える人もいますが、僕はこの考え方は決して間違いではないと思っています。

例えば、LDと呼ばれる学習障害。学習に馴染めないという障害はあっても知能は優れているケースが多いと聞きます。日常生活にも支障はありません。思えば学習というものは、大多数の人が決めたルールのようなものなわけで、それに適合しない人もいるはず。特に近年の学習とは、自分の知識を高めて人々の生活を豊かにするという側面から大きく外れて、各々の人生を選別のためのふるいとして機能しているので、テクニック次第でいくらでも水増しすることが出来るようになっています。もはや学習というルールが絶対のものでなくなっているのです。

ものさしが当てにならなくなっている例の1つが知能指数です。かつては絶対的な頭の良さを評価するバロメーターのようなものでしたが、テレビゲームなどを通じて立体物の理解が得意になった子供たちの知能指数は相対的に高くなる傾向にあるようです。一昔前だと天才のレベルに達している子供も珍しくないとか。ちなみに学問としての英語も国際化が進み帰国子女が増える中で果たして成績として評価していいものか疑問に思えてきます…話が逸れました。

ミラーズは、とんでもなくグロいシーンがいくつか出てきます。主人公の妹の顎が裂けるシーンなど、テレビでは絶対に放映されない映像です。それでいて、心を病んだ主人公の情景がテンポを著しく停滞させます。霊現象の謎解きは面白いので、あちこちにエピソードを散らかすのではなく、一点もしくは二点に集中した方が、グロい映像に頼ることなく観客を怖がらせることが出来ると思うのですが。

終盤はもう最初の映画の雰囲気から外れて何でもアリの状況になっています。それはそれで観ていて笑えるのですが、何となくもったいない感じもしてきます。霊現象を封じ込める結末も衝撃的で、エンディングも機知に富んでいる感じがしました。

それでは評価に移ります。

【基礎点】

一般の洋画(15点)
・15点

【技術点】

テーマははっきりしているか(10点)
(一言で説明出来るか/魅力的だったか)
・6点
主人公が鏡の謎を解く話?

そのテーマは時代にマッチしているか(10点)
(今の時代に当てはまるような要素があるか)
・2点
時代の鏡にはなっていない。

観光要素はあったか(10点)
(何か目新しく感じられる要素はあったか)
・0点

観光要素は魅力的だったか(10点)
(その観光要素は魅力的なものだったか)
・0点

主人公に貫通行動があるか(10点)
(主人公の目的=欲望がはっきりしているか)
・10点
鏡の謎を解こうとする。

【芸術点】

印象に残る人物はいたか(10点)
(多くても1、2名に限る。それ以上いたら逆効果なので減点)
・7点
無駄な登場人物はいなかった。

印象に残るシーンはあったか(10点)
(多くても1、2シーンに限る。それ以上だと逆効果なので減点)
・7点
主人公の妹の顎が避けるシーン。観ていて気分が悪くなる人がいるのでは?

泣けたか(10点)
(ストーリーの流れで泣けた部分はあったか=単に人が死んだとか、物理的な悲しさは評価外)
・0点
泣けない。

笑ったか(10点)
(ストーリーの流れで笑った部分はあったか=主人公の仕草とかで笑いを誘った場合は評価外)
・10点
大笑い出来るようなシーンはないが、エンディングのオチは面白い。ネタばれになるが、鏡の中の世界の映像は、普通の風景を撮影して反転させているのではなく、標識とか街の風景を本当に反転させて撮影しているように思えた。無駄なこだわりに対して10点を献上。

怒りを覚えたか(10点)
(ストーリーの流れで怒りを覚えた部分はあったか)
・0点
主人公は親族を殺されたり、殺されそうになるのだが、その根拠となる「霊」に人格は存在しないので怒りは感じられない。これはもったいない。

【減点項目】
・減点なし。

基礎点(15)+技術点(18)+芸術点(14)×1.5-減点(0)=CinemaX指数(69)

「E」評価(69点以下)

ホラー映画は、採点基準では不利に働くようです。登場人物は絞り込まれていて、減点の少ないホラー映画といえるでしょう。この映画を観ると、目を閉じたまま髪を洗うのが怖くなりそうです。

2009年1月7日/有楽座
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January 12, 2009

ブラインドネス

監督:フェルナンド・メイレレス
製作総指揮:ゲイル・イーガン、サイモン・チャニング・ウィリアムズ
原作:ジョゼ・サラマーゴ
音楽:マルコ・アントニオ・ギマランイス
脚本:ドン・マッケラー
出演:ジュリアン・ムーア、マーク・ラファロ、アリシー・ブラガ、伊勢谷友介、木村佳乃

「何かが足りない」

あけましておめでとうございます…ですが、昨年末に鑑賞した映画を紹介します。
新橋のチケット屋で800円で投売りしていたブラインドネスの前売券。何故?と思う気持ちを抑えつつ購入しました。ところが調べてみると封切りからやや時間が経っているせいか劇場は少なく、やっとの思いで鑑賞することが出来ました。

ブラインドネスは、失明していく伝染病に襲われる人々を中心に展開されるストーリーです。最初の患者は、伊勢谷友介演じる日本人男性。あの悪名高いキャシャーンに出演していた俳優です。キャシャーンの時は作品そのものが酷すぎたのですが、やはりその時も気になった、出川哲郎とニャンちゅうを足したような押し出すようなセリフの喋り方は健在でした。これが非常に鑑賞意欲を殺いでしまいます。

「元モデルという割に演技が上手い」という評価もありますが、元モデルで今や俳優として活躍する人は数多くいます。ところか伊勢谷氏の出演作品数の数から観て、まだこのような評価をされるようなら、俳優には向いていないのでしょう。キャシャーンに対する評価を差し引いても作品をぶち壊しにしかねない俳優だと思います。

一方でその妻を演じたのは木村佳乃。ドラマでは主役を張るには厳しく、脇役ではもったいない不思議な位置付けの女優です。アイドルでもちゃんとしたモデルでもなく、歌やグラビアも失敗した感じがするので、とどのつまり、女優しか活路がなかったという感じの女性だといえるでしょう。それは言い方を変えれば、周りにあれこれ道を決められそうになっても、頑なに女優であるべきという人なのかもしれません。

ということで、木村佳乃演じる日本人女性は、脇役ながらかなりの存在感を示しています。日本人らしい美しさや細身の体型をしているので、もっと海外に進出してもいい人なのかもしれません。英語も出来るようなので、今後の進み方次第では日米の映画界の橋渡しのような存在になるのかもしれません。日本で著名で、海外で活躍する俳優、特に女優はいないといっても過言ではないですから。

さて、このブラインドネスですが、緊迫感のあるストーリーの一方で足りないものだらけです。この足りないものだらけという点が、観客の心を部分的に惹きつけるのに留まっているような気がします。決定的に足りないのは、この伝染病の正体は一体何なのか?原因が分からない映画は、大概が話題だけで果ててしまいます。首都消失も当時の邦画としては原作に後押しされて斬新な印象がありましたが、原因は「?」でした。ブラインドネスも原因は不明。首都消失もそうでしたが、その中であたふたする人々を描きたかったのなら、それはそれでアリなのかもしれませんが、何だかしっくりきませんでした。

世界中の人々が失明する中で1人だけ目が見える医者の妻が、収容所の中で何故主導権を握ろうとしないのかという点にももどかしさを感じました。この女性は後に主導権を握るのですが、もたもたし過ぎ。映画にとって「あーあ、余計なことをして」と思わせる要素は必要です。同様に「どうしてやらないの?」という部分もエッセンスとなり得るのですが、長引きすぎると観客は飽きてきます。まさに両刃の剣といえます。

評価に移ります。

【基礎点】

一般の洋画(15点)
・15点

【技術点】

テーマははっきりしているか(10点)
(一言で説明出来るか/魅力的だったか)
・4点
世界中の人々が失明する話。あまり魅力的には感じられない。

そのテーマは時代にマッチしているか(10点)
(今の時代に当てはまるような要素があるか)
・8点
人々の繋がりを見直す点ではマッチしているのかもしれないが、目が見えなければ差別は存在するのか否かなどもう少し踏み込んでもよかったのかもしれない。どのような状況でも結局、人間は対立するという部分は描けていたと思う。

観光要素はあったか(10点)
(何か目新しく感じられる要素はあったか)
・1点
ない。

観光要素は魅力的だったか(10点)
(その観光要素は魅力的なものだったか)
・0点
ない。

主人公に貫通行動があるか(10点)
(主人公の目的=欲望がはっきりしているか)
・10点
主人公は医者の妻。夫や収容所で知り合った仲間を助けるという欲望。

【芸術点】

印象に残る人物はいたか(10点)
(多くても1、2名に限る。それ以上いたら逆効果なので減点)
・6点
主人公(医者の妻)

印象に残るシーンはあったか(10点)
(多くても1、2シーンに限る。それ以上だと逆効果なので減点)
・8点
収容所内の対立で別グループの女性を差し出させるシーン。人間の醜さが表現されていた。

泣けたか(10点)
(ストーリーの流れで泣けた部分はあったか=単に人が死んだとか、物理的な悲しさは評価外)
・0点
泣けない。

笑ったか(10点)
(ストーリーの流れで笑った部分はあったか=主人公の仕草とかで笑いを誘った場合は評価外)
・0点
笑えない。

怒りを覚えたか(10点)
(ストーリーの流れで怒りを覚えた部分はあったか)
・10点
あちこちに発生する人々の対立、争い。

【減点項目】

筋違いのPRが行われている(-10点)
・-2点
橋の上を渡るような神秘的な映像が印象に残るが、本編とは関係ない。

話に絡むキャラクターが多すぎる(-10点)
・0点
あえて絡む人数を削る努力をするのが面白い。例えば後半に一行が街に出るシーン。これまで微妙に絡んでいたキャラクターがそれとなくはぐれていくのが分かる。これは逆に評価してもいいかもしれない。

基礎点(15)+技術点(23)+芸術点(24)×1.5-減点(2)=CinemaX指数(72)

「D」評価(70点以上)

大団円で終わるのではなく、何かしら変化球が込められていれば、もっともっと評価される映画になったのかもしれません。そのままのストーリーでも日本では過小評価されている感のする映画です。

2008年12月13日/ワーナーマイカルシネマズ板橋
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