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November 23, 2008

ハッピーフライト

ハッピーフライト

監督・脚本:矢口史靖
音楽:ミッキー吉野
出演:田辺誠一、時任三郎、綾瀬はるか、寺島しのぶ、岸部一徳ほか

「道端の花」

ハッピーフライトです。スウィングガールズを劇場で見逃しているので観てみました。矢口史靖監督は、サラッととんでもない映画を作るので、注意が必要ですが、サラッと観たハッピーフライトも、とんでもない映画でした。

ハッピーフライトは、航空業界の日常を描いている映画です。広告のノリがドタバタっぽいのですが、全く印象が異なっていました。バナナが落ちていて、次のシーンで簡単にこけるような看護婦のドタバタ映画とは趣が異なります。

飛行機の機内を扱った映画やドラマは数多くありますし、CA、昔で言うところのスチュワーデスを扱った映画やドラマも数多くありますが、かつては飛行機に乗ることすら憧れだった1970年代のエアポートシリーズや、スチュワーデスが女性の花形職業の象徴だったスチュワーデス物語の頃と今はずいぶん変わりました。

航空料金はディスカウントされ、CAという職業は契約社員が当たり前の時代になりました。整備士やパイロットは安全に関わると言うことで、給与面では今も優遇されているようですが、CAは仕事に対する情熱がないと続けられない職業になりました。

このように我々の身近になった航空業界ですが、裏側は見えません。もしろ見せてはいけない職業といえるでしょう。ハッピーフライトはその裏側を見せる映画なのですが、絶妙なのは、表側と繋がっている部分もきちんと描いているところです。

空港内をグランドスタッフが走り回っている姿、整備士が滑走路で手を振っている姿、離陸地点に向かう時に主翼のフラップが上がったり下がったり、まるで準備運動をするようにいろんな動きをしていたり、ランプが付いたり消えたりしているのは、飛行機を利用した人なら誰もが見ている光景ですが、その裏で何をやっているのかも描いていて面白いです。

他にも水平飛行になりランプが消え、CAがさっとエプロン姿になってサービスをしている裏に何があるのか、どうやって乗客の容貌に応えるコツなど、注文を覚えているのか興味のあることばかりです。

多くの人が一度は憧れたであろう航空業界を扱って、しかもその中にごくありふれたドラマを織り込む。「ありふれた」というのがポイントで、ありふれた日常を目指し、安全管理を徹底するというのがこの業界の特徴といえるでしょう。

ところで、道端に咲いているこういう花(映画のタネ)をどうして誰も気にとめなかったのか。気付いていた人は多いはずなのですが、恐らく「どうせできっこないだろう」という先入観が壁となっていたのでしょう。確かに一昔前の航空業界なら、映画にすることなど面倒くさいと蹴飛ばしていた話かもしれません。

それが今や過当競争に入り、ふんぞりかえっているだけではいられなくなりました。そこに作り手の壁を破るんだろいう心意気が、映画化を実現させたのかもしれません。そこには、矢口監督の過去の実績というものも含まれているのしょうが。

ハッピーフライトはほかにも、面には絶対に現れることがない、航空管制官や航空会社のオペレーションセンターの日常も描いています。他にもCAとグラウンドアテンダントの縄張り意識とか、細かいポイントがちりばめられていますが、情報を押し付けられるような感じがしないのが不思議です。

恐らく映画を作るうえでもっともっと多くの情報を蓄えていて、その中から厳選した「なるほど」と思える情報だけを使ってストーリーを組み立てていることでしょう。その中には泣く泣く削除した情報もあるはずです。

例えば、周防正行監督は、いろんなことを調べて、もったいないから全部詰め込むような感じです。だから数少ない作品の多くが、コメディなのにドキュメンタリーに毛の生えたような雰囲気がして「俺が調べたことを教えてやる」みたいな恩着せがましい雰囲気になるのだと思います。

一方、三谷幸喜監督の場合は、ドタバタを織り込んで、その場は笑えるものの鑑賞後の印象がない。笑いの中に少しだけ泣けるシーンが入れば際立つのですが、その泣けるシーンそのものは、泣きの要素としては不十分であるため、印象に残らないのかもしれません。

さて、評価に移ります。

【基礎点】

一般の邦画(20点)
  ・20点

【技術点】

テーマははっきりしているか
(一言で説明出来るか/魅力的だったか)
  ・10点
  空の安全を守る航空業界の人々の日常。

そのテーマは時代にマッチしているか
(今の時代に当てはまるような要素があるか)
  ・9点
  日本人のクソ真面目さを長所として考えようという点では素晴らしいと思う。

観光要素はあったか
(何か目新しく感じられる要素はあったか)
  ・9点
  航空業界のどっぷり裏側から、表との接点まで、裏という裏を美味しくチョイスしている。

観光要素は魅力的だったか
(その観光要素は魅力的なものだったか)
  ・10点
  誰しも目にしている光景の裏側が分かるという点にカタルシスがある。

主人公に貫通行動があるか
(主人公の目的=欲望がはっきりしているか)
  ・7点
  どちらかといえば綾瀬はるか演じるCAは、存在感はあるがおまけ。パイロット、チーフパーサーなど周囲のキャストがかなり良い味を出している。

【芸術点】

印象に残る人物はいたか
(多くても1、2名に限る。それ以上いたら逆効果なので減点)
  ・9点
  岸辺一徳演じるIT化で行き場を失ったオペレーションセンターの中年男性。いざと言うときにはアナログの能力が頼りになると言う設定の典型だが、伏線に女性職員が「最初の頃はシュッとしていたんだけどな」と油断しまくりの背中を見るシーンをさらっと入れるなど描き方が秀逸。  

印象に残るシーンはあったか
(多くても1、2シーンに限る。それ以上だと逆効果なので減点)
  ・9点
  岸辺一徳演じるオペレーションディレクターが、停電によるシステムダウンを機にアナログの力を発揮するところ。

泣けたか
(ストーリーの流れで泣けた部分はあったか=単に人が死んだとか、物理的な悲しさは評価外)
  ・10点
  CAが緊急時に「頭を下げて!」と連呼するシーン。テレビなどで見ているが、CA本人たち、裏方で支える多くの人々の努力の積み重ねの上に成り立っているから印象的になる。

笑ったか
(ストーリーの流れで笑えた部分はあったか=主人公の行動とかで笑いを誘った場合は評価外)
  ・9点
  航空業界は、ひとくくりに出来ないほどの専門性の高い職業の集団ということが分かる。それぞれにプライドと職業病みたいなものを抱えているのが笑える。特に面からは見えない航空管制官のエピソードは面白く、整備士の厳しさは納得出来る部分も多い。

怒りを覚えたか
(ストーリーの流れで怒りを覚えた部分はあったか)
  ・8点
  基本的に怒りを憶えるシーンはないが、我々乗客は、日頃から乗務員に勝手な注文をしているなあと思った。

【減点項目】
  ・特になし。
  登場人物の多い作品ではあるものの、それぞれのランク(主役・脇役・端役)に沿ったトーンで描かれているので煩雑には感じない。もしろちりばめられた小さなエピソードも最後にはしっかり拾い終わるので、すっきりしている。

基礎点20+技術点45+芸術点45×1.5=133点。減点ゼロ。
CinemaX指数133、「A」評価(120点以上)。

ストーリーも分かりやすく悪役も出ないし誰も死なない。それなのに感情を揺さぶられるのが矢口史靖監督作品といえるでしょう。今年は10作あまりしか鑑賞していないのですが、ハッピーフライトは、CinemaXでは今年最高ランクの映画です。

2008年11月21日/ユナイテッドシネマ豊洲

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