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September 09, 2007

メモ

今日、明日と黒澤明監督作品の「天国と地獄」「生きる」のリメイク版がテレビドラマとして放映されます。年末には「椿三十郎」テレビでやること自体失礼なような気もしますが、シナリオの師が当時の黒澤明に絡んでいた人で、「生きる」はともかく「椿三十郎」特に「天国と地獄」は事あるごとにエピソードを述べていたので、記憶していることをここにまとめます。師の明らかな記憶違いと思われる部分もありますが、恐らく本として著わしていないと思うので、口伝として語り継がれるべき話なのかもしれません。

師が特に語ることが多かった「動機」と「身代金」のエピソードを書き出します。まずはそのままお読み下さい。

<動機>
天国と地獄(1963年3月公開)は、同年3月に起きた吉展ちゃん誘拐殺人事件をきっかけに「誘拐とは卑劣であり許せないものだ」として、黒澤氏が当時撮影していた映画を中断して、わずか数ヶ月で製作された。原作は1959年に発表されたエド・マクベインの「キングの身代金」で、東宝関係者を渡米させ映画化権の取得交渉に入る。既に映画化の話が進んでおり難航したが、黒澤氏の動機に賛同したマクベイン本人が映画化を承諾し、撮影に入った。

・吉展ちゃん事件は公開の後に発生していて、犯人は天国と地獄の予告編を動機の一つとして挙げていることから、雅樹ちゃん誘拐殺人事件(1960年5月)の記憶違いかもしれません。当時の誘拐に対する罪の軽さに憤っていたことが動機になっていますから、製作前の誘拐事件が引き金になった可能性が高いといえます。中断した映画や製作期間は確認のしようがありませんでした。

<身代金>
洞察力に優れた黒澤氏は、既に国鉄の特急車両の洗面所の上に僅かに開く窓を発見していて、天国と地獄の撮影に当たって使用することを思い立った。確認のため、関係者と東京駅に出向いた。立ち会った駅員は、特急車両は窓が開かないと思っていたので驚いていた。酒匂川の河川敷に落として、警察署が何分で駆けつけるかも計算した。犯人が逃げられないとリアリティがないので。酒匂川鉄橋を挟む2つの警察署に河川敷にどれぐらいで駆けつけられるか問い合わせた。

・おおよそ原作とはかけ離れることが多い黒澤映画なので、エピソードのようにもともと思いついていたアイデアをガッチャンコしたというのが適当でしょう。師からは既に一般的になっている撮影のため民家の一部を取っ払ったという話も聞きましたし。警察署は再編や新設があれば違うかもしれませんが、小田原署ともう1ヶ所は松田署あるいは大磯署だと思われます。通報で最短で到着する時間を割り出し、犯人が逃げられるかを考えたようです。おそらく地元の人の多くがこだわらないと思われる部分までリアリティを追求するのは、映画に対する執念以外の何者でもないでしょう。

ちなみに天国と地獄はモノクロですが、後半に登場する煙だけ色を使いました。黒澤氏は、極彩色の絵コンテを用意することも有名ですが、最後までモノクロ映画にこだわり続けました。色は観客の頭の中で再生欲しいという考えがあったのだとかもしれません。ラジオドラマにおいて聴取者の頭の中で映像を再生してもらうように、色に関してはモノクロの方が観客それぞれの頭の中で100%理想的な色で再現出来ますから。やがて天然色の流れに圧されて黒澤映画もカラーになっていきますが、逆に輝きを失って行ったように思えるのは気のせいでしょうか。

ちなみに椿三十郎ですが、原作の日々平安には椿三十郎自体が登場しません。試写会で山本周五郎は「面白い映画を作ってくれてありがとう。だが、これは私の作品ではない。お金はもらえない」と述べたものの、黒澤氏は「あなたの原作がなければ、この作品は存在し得なかった」と言ったとか。いつも通り役者には過酷で、蜘蛛の巣城でトリックで矢を射られた三船敏郎は、エンディングで水路に浮かぶ三十郎のシナリオを読んで「今度こそ本当に殺される」と怯えたとか。黒澤映画は共同脚本のメンバーにも過酷で「黒澤に殺される」と東宝関係者に泣きついて来ることが何度もあったとか。

ただ、黒澤映画が面白いのはモノクロかつ共同脚本の頃で、今はハリウッド映画などで共同脚本が一般的になっているところをみると、時代の先端を行っていたといえます。その後、共同脚本の方法はあまりとられなくなりました。黒澤氏を初め、共同脚本を担っていた脚本家の多くが単独で執筆した映画があまりヒットしていない実状をみると、やはりアイデアを出し合って脚本を考えていくことの重要性が感じられます。特に今の邦画はテレビドラマの延長でやっつけのようなものが目立ちますから。こうした共同脚本を言葉を吟味しながら作詞する阿久悠の詞とするならば、今の邦画は彼が「自分の狭い世界しか書けない」と嘆いていた多くのシンガーソングライターにあたるのかもしれません。もちろん歌詞も楽器の一つと考えるスタイルもいいとは思うのですが。
Sneko

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Posted by: Trinidad | May 08, 2014 at 04:52 PM

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