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February 17, 2007

世界最速のインディアン

監督:ロジャー・ドナルドソン
脚本:ロジャー・ドナルドソン
音楽:J・ピーター・ロビンソン
出演:アンソニー・ホプキンス、クリス・ローフォード、アーロン・マーフィほか
上映時間:127分
(公式サイトはここ

「隠し味なし」

バート・マンローという爺ちゃんが世界最速を目指す話です。もっと簡単に説明すれば、母を訪ねて三千里のマルコ・ロッシをバート・マンローに置き換え、目的を母親探しから世界最速へ、目的地をアルゼンチンからアメリカに置き換えたような話です。かえってややこしい?詳しいストーリーは公式サイトや他の映画系サイトをご覧下さい。

さて、この映画はバート・マンローの魅力一つにかかっている映画です。序盤はかなりダラダラしているのですが、それもアンソニー・ホプキンスの演技でどういうわけか誤魔化されます。ただ、地元の珍走団と対決するシーンまでは、映画の中ではバート・マンローの人の良さが説明されるのですが、観客にはなかなか伝わってこなかったような気がします。冒頭で何か一つ、大きなイベントを入れれば、観客はより簡単に感情移入できたことでしょう。

ターン1までの評価「B」

このバート・マンロー、やっていることは変人なのですが、話すと相手の心を掴み取る天性の才能をもったかのようなお爺ちゃんです。監督のロジャー・ドナルドソンは、駆け出しの頃に本人のドキュメンタリーを製作したらしく、いつかはこの人で映画を作りたいと思っていたそうですが、数十年経つ間にバート・マンローに対する敬愛の念は異常に膨らんだのか、はたまたもともと憎めないお爺ちゃんだったのかは分かりませんが、主人公は完璧なまでに「いい人」の設定になっています。実は、やることだけでなく、もっといろんな面で変人らしくしてくれないかな、と最後まで期待していたのですが。

主役だけでなく、あらゆる脇役もいい人ばかりです。同性愛者に対する差別やイラク戦争に対する暗喩的な非難も盛り込む欲張りな設定です。このあたりはあざとさを感じるのですが、バート・マンローのいい人ぶりを示す上では、いいエッセンスになっているのかもしれません。それにしても終始いい人たちばかり。盗人が出ないかな?とか、マシンを壊す奴がいないかな?とか期待したのですが、それもありません。つまり、主人公を成長させるこれといった壁がありません。まあ、お爺ちゃんはいろいろな経験をしてきたので成長する必要がないともとれますが。

ターン2までの評価「B」

ただ、脇役も根拠なくいい人なのではなく、最初は少しだけバート・マンローに立ちはだかろうとしますが、彼の魅力にあっけなく土俵の外に押し出されて、早ければそのシーンのうち、遅くとも次のシーンでは味方になってしまいます。この心の動きは、映画の中のキャストが動くだけだと説明不足で映画そのものがしらけてしまうのですが、バート・マンローのセリフがなかなか面白いのと、何よりもアンソニー・ホプキンスの演技力がこの映画全体を支えているようです。そして、いつの間にか、観客もバート・マンローの魅力に惹き込まれてしまいます。

とにかく、このバート・マンローの魅力は驚異的で、最初は怪訝な表情をうかべていた隣人やタクシードライバー、モーテルの受付嬢?や中古車販売会社の社長、大会運営者、なんでんかんでんのおやじとスタローンを足して2で割ったようなおっさんまで、その他の脇役も含めみんないい人にしてしまいます。悪いのはガラガラ蛇ぐらい。これほどまでいい人ばかりで、それでいて映画として成立しているのはある意味、凄いかもしれません。その希少価値を湛えて評価しました。

最終評価「A」

悪い人が全くいないので、物足りない部分があるかもしれませんが、団塊世代に贈る映画として、あるいは何歳になっても夢を諦めてはいけないという部分で学校の文化祭でも安心して上映できる映画といえるでしょう。残念なのは、世界記録の説明がややこしく混乱してしまうこと、展開が早すぎる割に終わり方まであっさりしてしまったことです。バート・マンローには観客まで惹き込む魅力があるので、世界記録を登場人物や観客みんなで達成したという感覚はあるのですが、個人的には「お前なんか無理だよ」というような人(こういう人物もいるにはいるが、すぐに味方になってしまう)を出して、世界記録してやったり、という展開のほうがより一層感動を呼ぶのかもしれません。

~鑑賞メモ~
鑑賞日:平成19年2月15日
劇場:ワーナーマイカルシネマズ板橋
観客数:6人/122席
感涙観客度数:33%
※各ターンは個人的に設定、感涙観客度数は場内の鼻すすり音で推定。

インディアンは、差別用語であるとしてネイティブ・アメリカンという呼称が意図的に広められていますが、さすがにマシンの名前をネイティブ・アメリカンに変えるわけにいかなかったのでしょう。邦題のタイトルにまで使ったのは、いいことだといえます。もちろんインディアンを差別用語か否かについての議論も続いていますが、何よりもこういう用語を単に覆い隠すのではなく、差別を助長しないように配慮しながら必要に応じて露出させるのが必要だといえます。

話は変わりますが最近、「メクラ」「オシ」「ミツクチ」など差別用語を使用した魚の呼称を変更する動きがありますが、これも覆い隠すだけでは全く意味のないことといえるでしょう。たとえば「メクラウナギ」の名前を初めて耳にした子供は、その意味を聞くでしょう。そこで、魚には使われているが、人間に対して使ってはいけないと説明することが出来るわけです。もとより魚の呼称は簡潔で的を射たものが多いですから、魚の特長そのものを見過ごすことになりかねませんし、呼称そのものを変えたのでは差別用語について話合う機会すら存在しないことになります。100%覆い隠せるならまだしも、情報は必ず漏れるものです。子供たちがその言葉の重みを知らず面白おかしく使ってしまっては全く意味がありません。

最近、ニュース番組で「つんぼ桟敷」という言葉を使った解説者がその場で謝りました。翌日、あるキャスターは別の番組で「ナントカ桟敷」という表現をしていました。「つんぼ」はもちろん差別用語ですが、「つんぼ桟敷」に代わる上手い表現が出来る言葉がないのも実状です。他にも「めくらめっぽう」など。新たな言葉を捜していくのも必要ですが、予め断った上で使っていくのは決して悪いことではないと思います。そこで、多くの人が差別用語について話し合う機会が生まれれば、なおさらです。そうすることで差別用語は自然消滅していく可能性もありますから。

…映画からかなり逸れてしまいましたが、世界最速のインディアン、是非ご覧下さい。

ついでに紹介!

世界最速のインディアンを観てふと思い出した映画たち。

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