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August 09, 2006

ゲド戦記

ゲド戦記
監督:宮崎吾朗
原作;アーシュラ・K・ル=グウィン
脚本:宮崎吾朗、丹羽圭子
音楽:寺嶋民哉
声の出演:岡田准一、手嶌葵、田中裕子、小林薫、夏川結衣ほか
上映時間115分
(公式サイトはこちら

「壮大なる素人仕事」

ジャパニメーションの質の高さを世界に轟かせた一方で、日本国内のアニメ市場を席巻してしまい、ジブリ以外はペンペン草の状態にしてしまった宮崎駿のご子息、宮崎吾郎第一回監督作品として鳴り物入りで封切られた「ゲド戦記」です。前評判が高いのか、そうでないのか、巷では賛否両論渦巻いていますが、予想外に手に入れたタダ券を使って観てしまいました。

いわゆるジブリ信者の方々からは封切前のかなり早い段階で「予告編を見て涙が出そうになりました」だのと絶賛されていましたが、果たして彼らは少なくとも予告編で露呈されていた「目新しさが全くないキャラクターデザイン」をどのように思っていたのでしょうか。血は繋がっていても父と子、別人です。見たことのあるキャラクターばかりで、声優も多くが使い回し。僕にはスタートから暗雲が垂れ込めているとしか思えなかったのですが。

さて、本編スタートです。原作を読んでいないからかもしれませんが、冒頭から話がさっぱり読めない状態が続きます。しかもそれがラストシーンまで。おまけに、乗り物酔いのような不快感を覚えます。恐らく、カットの数がやたら多いか、そのタイミングが悪いかのどちらかもしれません。加えて、状況を説明するだけのセリフが、作品のテンポを著しく悪くしているように感じます。

ターン1までの評価「D」

「ゲド戦記」は余計なものが多い映画ですが、ここで余計なセリフをいくつか上げてみましょう。「なぜそれを」「まさか…な」「ん?帰ってきたのかしら」「おかしいわねえ」「ついて来いってこと?」などなど。これらの多くが独り言でセリフがなくても仕草で充分表現できるものです。意味のないシーンも山ほどありますが、最も気になるのは、人物のセリフが一言、いや二、三言は余計だということでした。

宮崎駿作品の特長は、ストーリーもさることながら、高さ、そして建物や道具などの奇抜なデザインにあると思います。それが魅力となり観客に「スクリーンの向こうに行ってみたい」と思わせてくれます。ストーリーがぐちゃぐちゃな作品も少なくはないと思うのですが「眺めていて楽しい」というのは大きな武器といえます。ところが、「ゲド戦記」は、全くそのような魅力がありません。時間が経てば経つほど、「?」が増えていきます。アレンがどうして二重人格なのか、どうしてあんなことをしたのか、説明されるのは最後の最後、しかも不十分。作り手が分かっているだけで、観客に伝えようとする努力を怠っています。

「ゲド戦記」の主役級の人物は、セリフも状況を説明するだけだったり、哲学者のようにべらべらと難しいことを喋るだけなので、少しだけ味のあるハイタカを除き、まったくキャラクターが立っていません。セリフのやりとりも例えば「それは何?」「みかんです」「おいしそうですね」「そうですね」と交互にやりとりをするだけ。セリフというのは「おや?」と思わせる応対をすれば、観客の興味を惹きますし、それがキャラクターとなります。そういう努力をも放棄しています。加えて、いろいろな人物の様々な行動も説明で済ませてしまうので、テンポも悪くなります。

例えば、ハイタカを追って来たウサギにテルーが「ハイタカは出かけてここにはいない」と説明するシーンでは、ハイタカを捕まえないと命の保証がないウサギが、あっさりとテルーの証言がウソではないと納得してしまいます。これは極めて安直です。ウサギは命がかかっているわけですから、そんなにすんなり納得出来るはずがありません。話術とか、論理とかで観客を納得させる作業を怠っています。他のシーンにもみられることですが、ご都合主義で観客を納得させようとしたり、作り手の糸(=意図)がミエミエの作りが気になります。例えば、極太の針金を使ったマリオネーションみたいなもの、これではしらけてしまいます。

ターン2までの評価「E」

「ゲド戦記」は、セリフもさることながら、人物の性格も崩壊しています。例えば、都合によって出たり出なかったりするアレンの二重人格(だから二重人格だという見方も出来ますが)、人嫌いのはずのテルーが次のシーンでは普通に他人と話していたり…メチャクチャです。おまけにダラダラとした展開…例えば手打ちうどんを作る時、小麦粉をこねるところ、麺を切るところ、茹でるところぐらいをダイジェストに流せば「ああ、うどんを作っているのだな」ということが分かるのですが、「ゲド戦記」だと小麦粉と道具の買い出しから出来上がりまでを長回しで説明しているような感じです。

ゲド戦記の上映時間は115分ですが、余計な部分を取り除いていけば恐らく上映時間は半分以下に短縮出来るでしょう。そんな無駄の多い状況のなか、極めつけは宮崎吾郎監督が自ら作詞した「テルーの歌」でした。棒読みの声優が歌っているあの曲でCMにも使われています。よっぽど気に入っているのか、1コーラスで終わるかと思いきやフルコーラスという大盤振る舞い。その間、観客は草原でもののけ姫みたいな女の子が歌っているのを口をポカンと開けて観ているだけなので、かなり辛いです。

シナリオをダラダラとさせる原因は、①無駄なシーンが多い②単純なやりとりだけのセリフ③主人公に貫通行動がない(または伝わっていない)④人物の性格が立っていない…などが挙げられますが、「ゲド戦記」にはシナリオを学ぶ人が必ず経験する失敗が全て詰め込まれています。簡単に言えば失敗のオンパレードです。宮崎吾郎監督は「ゲド戦記」の映画化を進めるなら、少なくとも監督業に徹して、ストーリーはきちんとした脚本家を起用するとか、自分でやるのなら2~3年ぐらいシナリオの勉強をするとか、拙速に事を進める必要もなかったのでは?と思います。宮崎という名前だけで、沢山の観客が劇場に足を運ぶわけですから。

世の中には自分が天才だと信じて、どのようなことであれ独学で事を進めようとする人が沢山いますが、実際の天才はほんの一握り。父親から受け継いだDNAを信じるのなら、きちんと勉強するべきでしょう。世襲で飯が食えるのは政治家やタレント、ワンマン企業ぐらいのものですから。

最終評価「F」

「ゲド戦記」は、ずぶの素人であるにもかかわらず、実力のあるスタッフや知名度のあるタレントや俳優を声優として起用して、いきなりメジャーのアニメ映画を作ることが出来るという、恐ろしく恵まれた環境にありながら、結局は思うがままに素人仕事でやっつけたような映画です。キャシャーンでも感じたのですが、周りの人は何も言わなかったのでしょうか。辛口で有名な父・宮崎駿も「よくまとまっている」と評価していますし、ジブリのパトロンのような人々も総じて絶賛しています。いよいよ流れ始めた「日本沈没」の観客の「感動しました」CM以上に不可解です。

宮崎吾郎監督の評価は、「ゲド戦記」で地に落ちたとする声もありますが、だったら這い上がればいいと思います。20年前、宮崎駿がゲド戦記の映画化を原作者に打診したものの断られてしまったエネルギーが、宮崎アニメを確立したといっても過言ではない「風の谷のナウシカ」を生み出したといわれています。血の滲むような努力をして、ジブリというブランドが生み出されたのですから、才能を信じるだけでアニメが作れるというのは大間違いだといえるでしょう。

「ゲド戦記」は、キャラクターや声優に目新しさがほとんどなく、一方で父親のアニメの大きな特徴である「高さ」「奇抜なデザイン」は引き継がず「結局、何がやりたかったの?」という疑問ばかりが残る映画でした。何よりもかわいそうなのは、眺めて楽しむことすら出来ない子供でしょう。ジブリの新作ということで楽しみにしていた親子連れも多いはずですから。

~鑑賞メモ~
鑑賞日:平成18年8月4日
劇場:チネチッタ
観客数:30人/407席
感涙観客度数:不明
※各ターンは個人的に設定、感涙観客度数は場内の鼻すすり音で推定。

ついでに紹介!
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Comments

 キャラクターデザインに関しては、むしろそれがジブリの特徴でもあるので、変化しなくてよかったと思います。
 ただ、それ以外に関してはほぼ同意見。腐海や動く城のような奇抜なものが無く、ジブリ独特のエッセンスが継承されてない感じでした。

 最近のジブリは海外小説の映画化ばかりで、特長のひとつだった世界観の広さを感じさせるストーリーがなく、物足りなく感じます。吾郎氏に創造力があれば、原作からジブリの路線に戻って欲しいんですけど。

Posted by: 匿名 | August 15, 2006 at 08:41 PM

コメントありがとうございます。もしこの映画に奇抜なデザインの建造物や設定があれば、キャラクターの見た目がこれまでと同じということも気にならなかったのかもしれませんね。幼い頃、腐海の光景を最初に見たときのドキドキ感は今でも忘れません。こういう「あっ」というものを期待したいですね。

Posted by: yuworldmaster | August 16, 2006 at 12:24 PM

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