« 初動と風向き | Main | 保身 »

July 24, 2006

日本沈没

CinemaX弟95回。ニッチン。

日本沈没
監督:樋口真嗣
原作:小松左京
脚本:加藤正人
音楽:岩代太郎
出演:草なぎ剛、柴咲コウ、豊川悦司、大地真央、及川光博ほか。
(公式サイトはここ

「沈没」

強大な広告代理店の力もあってか、製作委員会のメンバーであるTBS以外のテレビ局でも強引な宣伝が行われた日本沈没です。あの若手俳優2人の恋愛劇が大ブレーキになっているとか酷評も多い映画ですが、遅ればせながらCinemaXに登場です。

日本沈没は、小松左京の小説を原作にしたもので、前回は1973年の映画化。僕が生まれた直後なのでリアルタイムではもちろん、これまでも観た経験はありません(いずれレンタルで観ようと思います)。斜陽の時代を迎え、文芸作品の次の一手を模索していた日本の映画界は、日本沈没のヒットでやや息を吹き返し、その後は小松左京の原作を次々に映画化していきましたが、ン十億円をドブに捨てた1984年の「さよならジュピター」でトドメを刺されたとするのが、通説のようです。

ちょうどこの頃にフランシス・コッポラやスティーブン・スピルバーグや、ジョージ・ルーカスの一世一代の仕事、スターウォーズが日本に侵略してきたことや、松本零士をはじめとするアニメの人気が高まってきたことも奇妙に符合しますが、仮にハリウッド勢を押し返すような面白い映画を作り続けていたのなら、今の日本の映画界というものはもっと違った方向に向かっていたのかもしれません。例えば、不動産屋さながらの東宝も長く培ったノウハウを高い水準で維持できたことでしょうし、地場の映画館が頑張って営業を続けられる環境も続いているかもしれません。

日本沈没の監督は、ローレライの樋口真嗣氏です。ローレライ自体が面白かったので、割と良い印象を持っています。さて、本編スタートです。

映画やドラマでは、主役級の人物の登場の仕方が重要なのですが、この映画は、それぞれの特徴をもって、あっという間に登場してしまいます。その後のタイトルもレトロで、キャストやスタッフを紹介する文字も、古き良き日本映画を髣髴とさせてくれます。ハリウッド映画が当たっているからといって、西洋かぶれになる必要はないことが分かります。だって、日本の野球の応援もそうじゃないですか。

ところが日本沈没は、時間が経つにつれ不可解な点が見え隠れしてきます。まず、柴咲コウ演じるハイパーレスキュー隊です。新潟県中越地震での捨て身の活躍が印象的な東京消防庁のレスキュー隊ですが、何故、柴咲コウなの?という感じもなくはありません。後に大臣として出演する大地真央もそうですが、映画などでこれまで男所帯といわれたような職業に安易に女性が登用されているのをみると、逆に違和感を感じてしまいます。男女平等の世の中といわれますが、まだまだ現実は程遠いように思います。映画がそうした雰囲気を変えるきっかけとなるのは良いことだと思いますが、度が過ぎると、製作側が良い顔をするために、無理に女性を押し込めているという感じがしてなりません。

映画は終始、自衛隊や東京消防庁などの機器自慢に終始します。中でも異様な姿が印象的な地球深部探査船「ちきゅう」は、古くからの計画に基づいて建造されたとされていますが、中国が東シナ海で資源開発を始めて、慌てて予算を計上して建造した船だというほうが自然だといえるでしょう。「地球深部探査」という仰々しい役目を負っていますが、東シナ海を掘るため。国内の石油開発会社に掘削権が与えられたはずですが、決めたのは中川前経済産業大臣の頃。一説には親中派の二階氏が経産大臣に就任して白紙撤回されているとされていますから、これでは足並みが揃うはずがありません。あほか。

そんなことで、作ってはみたものの宙ぶらりんになった船が、映画撮影でリサイクルされているわけです。建造費はもちろん税金で賄われています。一番喜んでいるのは、海洋研究開発機構の半役人の方々と、思わぬ面白い船が撮影に使えた製作委員会の方々かもしれません。海洋研究開発機構は、独立行政法人。何度か触れたことがありますが、独法は一応、民間企業のような扱いなので、経営に失敗すると幹部の首の挿げ替えもあり得るという、従来の公益法人よりは厳しい(?)沙汰が待っているので、映画撮影に協力するのも、一般向けのパフォーマンスの一つといえるでしょう。

最終評価「F」

つい、最終評価を下してしまいましたが、この映画の残念な点を検証してみましょう。

○脚本が残念
製作者が思ったことを順繰りに、キャラクターに喋らせているだけのように感じます。シーンにはそれぞれ、観客に伝えるべきことがありますから、キャストの性格に応じて、会話や行動をさせなければなりません。ただ、観客に与えたい情報を順繰りに喋らせているだけでは、キャラクターはその意味の一つである通り「性格」ですから、性格を描けなければ、キャラクターに無理な恋愛やお涙頂戴の寸劇をさせるのではなく、単に日本が沈没するというアクションだけを観せたほうがマシということになってしまいます。

○人物設定が残念
余計なキャラクターや設定が多すぎます。特に物語の根幹を成す草なぎ剛演じる潜水艇技師(?)とレスキュー隊員との恋愛は必要なのかとすら思ってしまいます。トヨエツ演じる研究者と大地真央演じる大臣が元夫婦であるとか。人物の相関図がややこしくて面白くなるのは昼メロぐらいですから、アクションがウリの映画にこんなものを持ち込んでも、かえって映画のテンポが悪くなるだけのような気がするのですが。

○沈没が遅すぎる
地震は発生しますが、日本が沈没し始めるのは後半です。キャラクター達は沈没するすると言いながら、のほほんと恋愛や研究が思うように進まないことを悔しがっている訳です。火の手が上がる前から火事の心配をしているようなもので、これではスピード感が全くありません。

○履歴書通りで残念
これは過去、何度か触れました。シナリオスクールなんかでは、人物設定にあたり、細かい履歴書を書けと言われます。それがキャラクターのセリフや行動のエッセンスになる訳で、何もシナリオの中でその履歴書を説明しろと言うわけではありません。ところが、ストーリーが破綻した映画やドラマには、この失敗をしているケースが多いような気がします。その一つが日本沈没。しかも自分で呪われたようにベラベラ喋ってしまいます。これでは、スピード感が落ちてしまいます。

○恋愛劇が残念
日本沈没は、潜水艇技師とレスキュー隊員の恋愛劇が根幹となるのに、その展開があまりにも稚拙なことが気になります。気がついたらいつの間にかお互いが惹かれ合っているわ、後述の最後の夜のシーンでは「好きだ」とダイレクトに口にしてしまいます。もうちょっとひねって欲しいところ。かつて恋愛ドラマのカリスマと崇められた北川某女史が、化粧品のCMで、数十秒で恋愛を描きたいと意気込んで注目されたところ、結果は松嶋菜々子に「好きになったかもしれない」とダイレクトに言わせてしまうという禁じ手同然の脚本を書き上げ、底の浅さを露呈してしまったことを思い出します。

○最後まで残念(ネタばれ注意!)
最後は、草なぎ剛が展示中の潜水艇で潜って日本を救うのですが、覚悟して逢いに行ったレスキュー隊員の彼女には「イギリスに行く」と嘘をつきます。そのまま朝まで一緒に居て、こっそり消える。そのまま日本を救えば、少なくとも僕の感動のツボには触れていたかもしれません。ところがこの男は「実は嘘でした」と手紙を残す。しかも、これからどういうことをするのかと詳しく説明をする始末。嘘だったというのは、後日(例えばラストシーンの大臣会見)知ればいいわけで、無理に再会シーンにもっていって涙を誘おうとする魂胆がミエミエです。せっかく面白くなりそうな要素だというのに。美味しいマグロが手に入ったからといって、一切れだけ置いて周りをツマだらけにするような姑息な手段は考え直してもらいたいものです。

~鑑賞メモ~
鑑賞日:平成18年7月22日
劇場:ワーナーマイカルシネマズ板橋
観客数:180人/262席
感涙観客度数:20%
※各ターンは個人的に設定、感涙観客度数は場内の鼻すすり音で推定。

日本沈没は、前作を観た人、観ない人も「日本が沈んじゃうの?」と期待して観に来ているわけですから、CGがいくらショボいといわれようとも、余計なサイドストーリーは取っ払って、ガラガラ壊れていく「日本」を主役にすべきだったと思います。映画も遊園地と同じく、非日常感を提供することも重要ですから。非日常感を提供する一方で、恋愛劇を描くというのは、出会ってすぐにキスしたりセックスをしてしまうハリウッド映画には可能でしょうが、やはり日本映画では無理があるようです。冒頭のタイトルやテロップは古き良き日本映画を踏襲したわけですから、無理に恋愛劇を押し込むような西洋かぶれの設定は本当に残念でした。

前頭の力士があっさり負けるのは仕方がありませんが、派手なメディアジャックを繰り広げて横綱級のPRをしておきながら、あっさりと負けてしまうのは、少なくとも僕からの視点では重罪です。試写会なんかで関係者が「この映画は面白くないからスタートが肝心だ。派手にPRをして短期間に観客をダマしてしまえば儲けられる」と思ったのではないかと勘ぐりたくなるほどです。月イチゴローでなかなか鋭い視点で評価を下す稲垣吾郎氏でさえ、日本沈没に対しては高評価を下すグダグダ状態ですから。

ついでに紹介!

1973年版「日本沈没」と封切間近の「日本以外全部沈没(原典:小松左京、作:筒井康隆)」の原作本。日本沈没の原作本は、バリエーションを含めいろいろあるので、ご自分でお探し下さい。ちなみに、日本以外…のほうが、物理的でなく内容的に映画化が難しい思うのですが。
もう一つは、トップをねらえ!Vol.3。人知れず地球を救うこととはどういうことか、一番逢いたい人に逢えずに使命を果たすということはどういうことか、このDVDを観れば、よーく分かります。主人公が「ごめん、もう逢えない!」と叫ぶセリフに全てが込められています。Vol.1、Vol.2と併せて必見です。

|

« 初動と風向き | Main | 保身 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/49725/11068941

Listed below are links to weblogs that reference 日本沈没:

» Buy zoloft cheap. [Buy zoloft cheap.]
Buy zoloft cheap. [Read More]

Tracked on August 08, 2007 at 02:47 PM

» The Blog [The Blog]
I would love to be able to come back and write a post about how we are developing, or have picked up a show based on a [url=http://hellobots.com/M182MTk0ODE=]comment[/url] posted to the blog. [Read More]

Tracked on August 28, 2007 at 11:24 PM

« 初動と風向き | Main | 保身 »