プロデューサーズ
CinemaX第83回。
プロデューサーズ
監督:スーザン・ストローマン
出演:ネイサン・レイン、マシュー・ブロデリック、ユマ・サーマンほか
上映時間:134分
(公式サイトはこちら)
「テンションの高いあなたに」
ミュージカルの映画化です。しかもリメイク、1968年に製作された前作は、登場人物たちがひたすらがなり合っているだけという印象が強いのですが、今回は国内でもプッシュする映画評論家も多いだけに、その真贋が気になるところです。
ブロードウェイを舞台にした映画ということで、実にアメリカ・アメリカした雰囲気の映画です。ビッグバンドによる独特の響きのある音楽は良いのですが、登場人物たちのドタバタはちょっと辛いものがありました。特に主役の2人は、ミュージカルから引っ張ってきたこともあり、テンションが極めて高いままストーリーが展開するのですが、これが映画には不釣合いで、喰らいついていくのが大変でした。
ターン1までの評価「B」
僕は、映画なら映画、ミュージカルならミュージカルのテンションみたいなものがあると思いますが、プロデューサーズは、ミュージカルのテンションで映画を作ってしまったことで、ギャップが生じてしまっているようです。劇中のミュージカルの部分は、まんまミュージカルのテンションで構わないと思うのですが、これは、全編にわたってミュージカル。「ミュージカルの映画化だから仕方がない」という人もいるでしょうが、せっかく映画にしたのですから、セリフや歌だけでなく、演技で心を伝えたり、もっともっと演出に小道具を使うなど、映画には出来て、舞台では出来ない部分をもっと活用するべきでしょう。
例えば、歌舞伎で見得をきったり、六方を踏むのは、歌舞伎だから許せるわけで、テレビドラマ…水戸黄門の場合、格さんが大見得をきりながら印籠を出したり、黄門様がエンディングで六方を踏みながら町を後にするような違和感が、プロデューサーズにはあるようです。
ターン2までの評価「C」
石原良純とジーコを足して2で割ったようなフランツという男が、良い味を出していました。CMでは「ユマ・サーマンかっこいい!」という声もありましたが、ゲイの演出家、ロジャーと並んで、存在感は抜群でした。ただ、ドタバタの繰り返しで間延びしてしまう展開は僕にはとても辛く、寝てしまいそうになりましたが。
テンションの違いでもう一つ思い浮かびました。例えば、ディズニーランドに行って、呪われたようにミッキマウスの帽子をかぶったり、でっかい手袋(?)をしたりするおっさんやおばさんを見かけますが、彼らが日常生活、例えば街中で同じ格好をして歩けるか、という感じに似ています。
最終評価「C」
プロデューサーズは、面白い映画にしようという意気込みは感じられるのですが、映画のテンションにハマっていないことで、どうもクソ映画の部類に入ってしまいそうです。シナリオを学んでいた頃、周りには「ドタバタのラブコメディを描きたいです」という輩が山ほどいて辟易したものですが、観客に真の笑いを提供するのが、いかに難しいか。ドタバタだけで提供する笑いなんか、あまりにも薄っぺらい。
これは、笑いだけでなく、悲しさや怒りも同じです。何度も触れたことですが、人や動物が死ねば、その場限りの悲しさは作り出せます。ただ、それまでの積み重ねがあれば、より多くの人々を、さらに深く悲しませることが出来ます。怒りも同じ。人を殺せば、観客は殺した人間に対して怒りを覚えます。それがとんでもない男だったりすれば、怒り心頭、逆に止むを得ずそうせざるをえなかった事情を抱えている男だった場合は、さらに高度で複雑な怒りを観客に提供することになります。
映画やドラマだけでなく、小説や歌、絵画などあらゆる芸術で名作と呼ばれるものは、往々にして人の感情を人工的に作り出すことに成功しています。最近のドラマが薄っぺらいといわれるのは、この努力をしていないからでしょう。これは、邦画も同じ。流行ばかりを追いかけて薄っぺらい映画ばかり作っていると、氷河期が再来することになりかねません。ハリウッドもクソ映画が多いのですが、世界を相手にするハリウッド映画は市場規模が大きく、それだけダマされる人も多いので成り立っているのでしょう。
プロデューサーズは、人工的に感情を操作することの難しさ、そういうことを考えさせてくれるという意味では、存在価値のある映画なのかもしれません。主人公の貫通行動、小道具(帽子)、登場人物の心の変化など、ストーリー展開に必要な要素は揃っているので、やはりミュージカルとしては秀逸な作品なのでしょう。それだけに、この映画の存在は奇妙です。ちなみに、劇中のアイルランドなまり(たぶん)、英語の分からない僕には違いが良く分かりませんでした。
~鑑賞メモ~
鑑賞日:平成18年4月22日
劇場:ワーナーマイカルシネマズ板橋
観客数:17/130席
感涙観客度数:不明
おすぎ氏、最近は提灯持ちを買って出るような映画批評が多いですね。
ついでに紹介!
がなり合っているという印象だけが残る前作はアカデミー脚本賞受賞。DVDはたぶん品切れ。
« 別物 | Main | Vフォー・ヴェンデッタ »
Comments