« 最初はグー | Main | 別物 »

April 26, 2006

ククーシュカ ラップランドの妖精

CinemaX第82回。

ククーシュカ ラップランドの妖精

監督:アレクサンドル・ロゴシュキン
出演:アンニ=クリスティーナ・ユーソ、ヴィッレ・ハーパサロ、ヴィクトル・ブィチコフ
上映時間:104分
(公式サイトはここ

「狙撃兵」

流行りのロシア映画の一つ。ただ、最近話題の「ナイト・ウォッチ」や脅威のスベりを披露した「大統領のカウントダウン」などと違い、派手さが全くない映画です。全国でもシネ・アミューズ一館(2006年4月26日現在)で文字通りの短館映画。ククーシュカは、ロシア語でカッコウ…カッコウとは、ロシアでは狙撃兵を差すようです。英語のディックのようなものでしょうか。♪忘れなーいで、お金よーりも、大切なものがあるー、チ○コ。果たして、ククーシュカは狙撃兵として、短館映画としてメジャーを狙撃するような映画になり得るのか(かなりこじつけ)、その評価やいかに。

ククーシュカの登場人物は、決して投降しないよう味方からドイツ軍の軍服を着させられ、岩に繋ぎとめられたフィンランド人「ヴェイッコ」と、本当は戦争が苦手なロシア人将校「イワン」、物語の舞台であるラップランドに住む、サーミ人の「アンニ」だけです。厳密に言えば、犬とか重要な隠れキャラなども登場するのですが、ストーリーの殆どはたった三人で展開します。だからこそ、誤魔化しがきかない、挑戦的な映画といえるでしょう。冒頭から暫くは3人それぞれ個別のストーリーが展開されるのですが、特に自由の身になるまでヴェイッコのエピソードは、眺めているだけなのですが、興味をそそります。

ターン1までの評価「A」

やがて三人は一つ屋根の下で暮らすようになります。ただ、日本からはあまりにも遠い場所の話なので、日本人が観る上では、ある程度の舞台設定の説明が必要だと思いました。フィンランドが第二次大戦に参加していたことすらピンときませんから。ただ、地域的な境目は何であれ、興味のあるものです。例えば、三大宗教に影響を受けた地域の境目とか。キリスト教の影響を受けた仏像とか、仏教の影響を色濃く受けたキリスト像などを見ると、遥かなるロマンを感じますし、世界に名だたる大河である長江と黄河の源流が僅かな距離しか離れていないことを思うだけで、妙にドキドキします。ククーシュカも、舞台であるフィンランドはどことどのように戦っていたのか、第二次大戦はどの地域まで巻き込まれていたのか、北欧諸国はどういう考えをもって戦争に参加していたのか、先入観が全くないだけに、その辺りにも大いに興味があります。

ククーシュカの決定的な面白さは、三人の言葉が通じないというところにあります。ロシア語、フィンランド語、サーミ語。ヨーロッパの言語は、多くが似通った単語があるのでなんとか通じないのかなと思うのですが、この映画では本当にどうにもなりません(笑)ただ、話が通じないながらもそれぞれが勝手な解釈をし、ストーリーはしっかりと展開していきます。その面白さは、例えば、言葉は通じているものの、周辺の人々との意思疎通がなされていないために主人公が話を曲解してややこしくなっていく「男はつらいよ」に似ています。面白いからといって決してドタバタではなく、登場人物たちが必死だからこそ、面白さが滲み出る…そういったところにも共通点があるようです。恐るべし、ククーシュカ。

ターン2までの評価「A」

ククーシュカには、サービス精神は決して旺盛ではない(つまり、おじさんたちの期待にそえない)ものの、エロチックなシーンがあります。特に日頃からエロエロ光線を出しまくる未亡人アンニの行動は、日本人の観点からすると信じられないものだといえるでしょう。ただ、北欧などでは、旅人が訪れた時、夜のお供に妻を差し出す地域もあるとかないとかということを考えると、ごく当たり前のことなのかもしれません。北欧には、性の先進国、スウェーデンもありますし。

ちなみに、世界の宗教や祭には、フリーセックスの意味合いが込められた儀式が多かったとされていますから、こういう行動は、人間にとってもごく自然なことなのかもしれません。それは、日本も例外ではないようです。現在、奇祭と呼ばれるもののごく一部には、性交を連想させる儀式が残っていますが、もともと全国各地の多くの祭では、祭りに併せて男女による乱交さながらの交わりがあったとされています。そういった祭は日本の近代化にともない、風紀の乱れとして批判を浴びるようになり、現在に生き残るためにはそういった部分を切り離さざるを得なかったために、面白い部分、観光資源となりそうな部分のみがチョイスされて今の形になった祭も多いといわれています。

ターン3までの評価「A」

平凡に暮らす三人ですが、言葉が通じないからこそ面白く、そして、言葉が通じないからこそ、悲劇を生みます。ヴェイッコとイワンは、敵対しているようで、実は戦争に反対する同類の人間なのですが、観客だけがそのことを知り、劇中で敵対する彼らは悲劇に至ってしまいます…これ以上は、実際にご覧下さい。

ククーシュカには、三人のほかに犬が登場します。この犬がよく鳴くのですが、鳴くのは犬に限らなかったりします。中盤のアンニの鳴き声はご愛嬌として(シーンとしては重要ですが)、特に後半の鳴き声は重要です。このシーンは前半には全く登場せず、本来なら「何じゃこりゃ?」となるのですが、このシーンが実は、ククーシュカのストーリーの厚みを増す大きな要素となっています。宗教的な儀式のようなものも出てきますが、その行為は極めて理に叶っていることが分かります。原始的な宗教とはこういうものだろうということが想像出来て、興味深かったりします。

最終評価「A」

ククーシュカは、最終シーンも秀逸でした。例えばアンニが男達に着せるトナカイの毛皮も大きな意味があることが分かりますし、最後の「オチ」も十分、納得出来るものです。地味ながら、設定、映像、展開など映画に必要な要素が高品質で備わっている映画です。終盤のあのシーンがないまま終われば、普通の映画に終わったのでしょうが、最後の一ひねりが極めて効果的でした。ククーシュカのテーマは恐らく「性=生」ということなのでしょう。梶井基次郎論のようにこの2つの単語を安易に結び付けたくないのですが、そこ以外にテーマが見当たらないという、極めてシンプルな映画です。

思わぬところで面白い映画に出くわす…ククーシュカは、まさしく狙撃兵のような映画です。短館上映というのは、秘密を独占するようなドキドキ感がありますが、本当はシネ・アミューズだけにとどまらず、多くの人々に観てもらいたい、今年一番の映画です。必見!

~鑑賞メモ~
鑑賞日:平成18年4月18日
劇場:シネ・アミューズ/ウエスト
観客数:20/129席
感涙観客度数:10%
※感涙観客度数は、劇場内の鼻すすり音で判定。

ついでに紹介!

「フランダースの犬」のエンディングほど湿っぽくなく、それでいてワンワン泣ける「ニルスのふしぎな旅」彼らが目指したのは、ククーシュカの舞台、ラップランドでした。そこはやはり不思議な場所のよう。

|

« 最初はグー | Main | 別物 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/49725/9766114

Listed below are links to weblogs that reference ククーシュカ ラップランドの妖精:

« 最初はグー | Main | 別物 »