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February 27, 2006

ミュンヘン

CienmaX第70回目。

ミュンヘン
原作:ジョージ・ジョナス
監督:スティーブン・スピルバーグ
脚本:トニー・クシュナー、エリック・ロスほか
音楽:ジョン・ウィリアムス
出演:エリック・バナ、ダニエル・クレイグ、キアラン・ハインズほか
上映時間164分
(公式サイトはここ

「ミュン変」

日本に熱狂的なファンが多い、スティーブン・スピルバーグ監督作品です。個人的には裏切られっぱなしの感もあるのですが。実は、熱狂的ファンが多いからこそ「スピルバーグ全て良し」と錯覚する輩も多いわけで、それが彼の作品の純粋な評価を邪魔しているという面もあるようです。「宮崎駿作品全て良し」とか、「ジブリにあらずんばアニメにあらず」という風潮にも似ています。

ただ、時間的、地域的に現在の日本からはかなり遠い話を題材にしているという点からか、それほど話題性の高い映画が少ないなかでジリジリと興行成績を落としていっているようです。仮にアカデミー賞を獲ろうものならあっという間に観客動員数は回復し、評論家や我々素人なかでは今までのダメ評価を覆して「実は前から良いと思っていた」という人が増えることでしょう。これもミュン変。

イスラエル選手団を襲ったテロリストへの報復メンバーに、アヴナーという主人公が選ばれるというところから話が始まりますが、冒頭からかなりダラダラしています。パンフレットには「彼は愛国心に溢れた若者で、テロ事件の残忍さに怒りと悲しみを感じていた」と説明がありますが、実は冒頭でそんな雰囲気は微塵も感じられませんでした。ただ単に、声をかけられて言われるがままに行動しただけ。序盤から観る側と製作者側でかい離があるというのは、大問題だと思うのですが。

冒頭は、作品全体のテンションをつかむのが大変でした。部分的に笑わせるような映画なのか、シリアスな映画なのか。そこまで直接的な表現をする必要もないでしょ?と思わせる残虐なシーンもある一方、人物がとんちんかんなセリフを言いながら笑うシーンもあります。しかも、殆どのシーンでこいつらが何で笑っているのかがさっぱりわからない次第で…まるで、別人格が憑依したよう。こういうシーンが増えれば増えるほど、観ている側は怒りが込み上げてくるほど。何せ、アヴナーという男が何で、行動しているかがさっぱり分からない訳ですから。愛国心の強さは感じられず、裕福ではないものの生活に困っている訳でもない。あまりにも普通の人。でも秘密情報機関の人なんです…パンフレットを読めば。説明が足らんっちゅうに!

ターン1までの評価「C」

この映画には、いい点もあります。映像と音楽。ストーリーの展開には大不満ですが、映像は何の抵抗もなく受け入れることが出来ました。これは重要です。用語はよくわからないのですが、シーンに応じてカメラを固定したり、ゆっくり移動させたり、ハンディカムを使ったようなさらに動きのある撮影をしていたりとか。シーンとシーンの繋ぎやアングルの切り替えも自然でした。きっと、オーソドックスな手法であり、新しいものは何もないのでしょうが、この点の技術力の高さは、スピルバーグ監督の実力といえるのかもしれません。

音楽もそうでした。音楽は今回もジョン・ウィリアムスです。スピルバーグとタッグを組んだ作品は数知れず。名作といえるテーマ曲も多いのですが、ジュラシック・パークあたりからは、スターウォーズ、E.T.スーパーマン、インディ・ジョーンズ(レイダース)などそれ以前の鮮烈な印象が残る曲は少なくなりました。ハリー・ポッターもジョン・ウィリアムスでしたか。ちなみに、オリンピックの曲も手がけ、’84ロサンゼルス、’96アトランタのほか、’88ソウルでは、失敗作っぽいテーマ曲を提供しています。

加えて面白かったのは、当時のニュース映像です。これが当時放送された実物か否かは確認出来ませんでしたが、事件を伝える緊迫感のある映像とキャスターの引きつった表情、犯人が堂々と喋るのを映し出す映像は見応えがありました。

ターン2までの評価「B」

ミュンヘンの上映時間は3時間近く、本編前の予告を含めると約3時間、拘束されることになります。鑑賞のうえでこれはかなりの覚悟が必要です。ただ、全てが必要なシーンかといえば、疑問でした。冒頭のだらだらしたシーンの割に、主人公がどういう人間なのかがさっぱり伝わってこなかったりと、時間をあまり効果的に使っていないような気もしました。例えば、赤ん坊が生まれる時に一時帰国(?)するシーンなどは必要があるのか疑問です。徹底的に説明して映画2本分(つまり4~5時間)の大長編にするか、多くを端折って普通の映画の長さ(2時間程度)にするか、どちらかはっきりさせたほうがいいのかもしれません。あちこち中途半端。

一般市民として平和に暮らしている対象者などを前にして、迷いながらも過去の遺恨を思い起こして気持ちを奮い起こして報復するメンバーの描写は、あちこちに出てきますが、あまりにも余計なシーンが多すぎて埋もれてしまっているのが残念でした。分かっているのは製作者側だけという苛立ちばかりが先行します。事前にイスラエルと中東との歴史的背景を徹底的に頭の中に入れていれば、あるいは元からその方面の知識がある人なら楽しめるかも知れませんが、ごく普通の一般人にそこまで用意してから映画を観ろよ、と要求していいものなのでしょうか、映画というものは。

ターン3までの評価「C」

後半、僕をさらに混乱させたのは、誰が敵か味方かわからなくなってしまったことでした。例えば、作戦の手引きをするルイなる人物から案内されたアジトに主人公が行くと、対立する中東側の組織が同居してしまいます。出くわした時点でバンバン撃ち合えばいいものを、咄嗟に嘘をついてそれが成功してしまいます。決してプロではなかった男達が咄嗟に何故、嘘がつけたのか、顔の特徴で判断できなかったのか、遠い極東アジアに住む人間なのでその点の勘がないからだけなのか、その点が腑に落ちませんでした。

後からはさらにエスカレートしていく始末。ただでさえ、ストーリーにまとわりついてくる人物が多い映画ですから、敵味方がぐちゃぐちゃになると頭が混乱してしまいます。ジオンVS連邦軍という単純な対立から構図がぐちゃぐちゃになって話についていけなくなったZガンダムのようです。

最終評価「C」

映像や音楽が自然なので、逃げ出したくなる映画ではありませんが、考えれば考えるほど混乱する映画でした。イスラエルに戻り、海外に批判される行動が国内では評価される。ただし、誰にも知られることのない存在なので、讃えるのはごく一部の人間だけ。主人公のこの葛藤は、面白い部分なのですが、彼が何故、報復活動を請け負い、続けていたのかがさっぱり伝わってこないため、何のこっちゃ分からなかったりします。

クライマックスでは、イスラエル選手団であった人質が殺されるシーンが現在の映像と長時間、シンクロし続けるのですが、これがさらに混乱してしまいます。ZZ(ダブルゼータ)か、この映画は。事件当時のシーンは、後半でシンクロさせるより、最初のうちにもっと流せばいいでしょ?と思いました。最後の最後で主人公の動機が見え隠れするようになるのですが、やっと話の流れを掴みかけたところで終わってしまいます。海底2万マイルのようです。江守徹の軽快なナレーションで、これから潜るのかなーと思ったところで、終わり。いろいろ問題を投げかけておいて、メッチャクチャな拾い方で終わり逃げ…まるでエヴァンゲリオン。何だよこれ。

~鑑賞メモ~
鑑賞日:平成18年2月25日
劇場:ワーナーマイカルシネマズ板橋
観客数:50/130席
感涙観客度数:3%

その場限りの死で泣いている観客を観ると、首を絞めたくなります。何度も言いますが、死は悲しいのが当たり前。本当に泣けるのは、それに至るまで積み重ねがあるかないか。人間の対立の空しさを感じたいのなら、ホテル・ルワンダを観ましょう。

ついでに紹介!

ジョン・ウィリアムス作曲の五輪テーマなどが収録されたアルバム「サモン・ザ・ヒーロー」ちなみに、収録されている’84ロス五輪の「オリンピックファンファーレ&テーマ」は、序盤に他の曲(重量挙げか何かのテーマ)を組み合わせた改造版。完全オリジナル版でないのが何とも残念。ロス五輪公式アルバムは絶版。TOTO、フォリナー、クリストファー・クロスの楽曲も収録された珠玉の一品…LPがうちにあるはずなんだけど、行方不明。

吹奏楽の師であり、開会式ファンファーレを指揮する斎藤徳三郎氏が一瞬だけ映る「東京オリンピック」DVD。市川崑監督。有名な富士山の前を走る聖火ランナーのシーンは、実は後撮り。

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