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February 26, 2005

ローレライ

CinemaX第31回目。

ローレライ
原作:福井晴敏
監督:樋口真嗣
脚本:鈴木智
出演:役所広司、妻夫木聡、香椎由宇ほか
(公式サイトはこちら
(計測時間128分)

「美味い料理とは」

福井晴敏原作の「終戦のローレライ」を映画化。
ちなみに、原作を読んだことはありません。
公開前なので出来るだけネタばれなしでいきましょう。

舞台は終戦間際です。広島に原爆が投下された昭和20年
8月6日以降。映画が史実どおりに進めば避けられない悲劇を
ほとんどの日本人が知っています。それだけにすんなりと
感情移入が出来ます。東西冷戦が終結して007シリーズなど
スパイ映画がリアリティを欠くようになった一方、南北の対立を
争う韓国映画にリアリティを感じるように、日本の歴史において
第二次大戦中期から末期あたりが最もリアリティにSFたぐいの
話を描ける時代なのかもしれません。制作会社がこうした企画を
募集すると「実は日本政府の陰謀だった」というストーリーが
目立つと聞いたことがあります。諜報活動などは国家を守ると
いう動機で良くも悪くも人間が行う行動ですが、現代ではこう
した行動が陳腐に感じてしまうことは、それだけ今の日本は
政官財がこぞって自分のことしか考えない欲まみれの人々で
溢れているということかもしれません。
境目というのは、何事も魅力があります。時代でいえば混乱期
です。いろいろな事件が起きる激動の時代です。日本でも歴史上
戦国時代や明治維新の頃は人気があります。例えば大河ドラマ
でも平穏無事で文化が育ったような時代より、人々が争いに
明け暮れていた頃のほうが人気があります。それだけ見応えが
あるということでしょうし、人間は本来、争いを好む動物だと
いうことかもしれません。
境目の魅力は、時代だけではありません。例えば地域でみると
地域と地域の境目、つまり文化と文化の境目は非常に魅力が
あります。それはそうです。両者のパワーが絶妙のバランスで
合わさっている場所ですから。中央アジアなんかにはキリスト教
やイスラム教に影響を受けた仏教画とか、ゾクゾクするような
文化があります。アジアでもかつての隆盛により文化が広がり
あちこちの地域で変質した中国文化のようなものが点在します。
人間で言えば男女の境目、大人と子供の境目にカルトなファンが
多いような気がします。殆どの人間は世間体や社会の目で自制
しがちですが、そういうものがなければこういう志向も本来の人間
の本能の一つなのかもしれません。

さて、本編です。
まず、欠点を挙げます…CG。日本の映画はハリウッドのように
世界に展開するネットワークがないので、CGにかけるお金は
ケタがいくつも違うのかもしれませんが、あまりにバレバレで
「これでは人物を合成するとボヤける」と修正したと思しき箇所
も見受けられました…これは日本映画の宿命か。
ちなみに、僕のシナリオの先生は、かつて、この映画と同じ東宝
で潜水艦映画のプロデューサーをやっていましたが当時、潜水艦
の魚雷が命中して水柱が上がるシーンを撮影する時、海保だか
海自だかに依頼して海中で爆弾を爆破させると当たり前ですが
一定距離は立ち入ることが出来ないので、撮影してみるとどうも
しっくりいかない。そこで当時東宝にいた円谷英二に相談して
みると「よし俺にまかせろ」という。やらせてみると精巧な潜水艦の
ミニチュアを作りリアルな映像を撮ってきた。欠点は金がかかること。
他にもいくつか特撮を頼んだが、予算が何倍にも跳ね上がった
…余談です。

構成上の疑問もありました。冒頭のシーンはいつの時点の映像なの
でしょうか。例えば、連邦軍がゲルググを見て「ジオンの新型モビル
スーツです」といえば納得できますが、「ゲルググです!」と言えば
「お前が何で名前を知っているんだ」ということになります。
こんな感じです(どんな感じじゃ?)
ただ、それらの欠点を補うように原作の内容が素晴らしいらしく
潜水艦にあんな機能が搭載されたのかとか、あの女は何者?だとか
矛盾する点もナチスドイツの凶行や混乱期にある終戦間際の日本と
いう設定がカバーし微妙な説得力を持っています。終戦が先送り
され物資が揃っていれば日本でもジェット機や大型爆撃機が完成
し原子爆弾も開発していただろうと言われています。広島、長崎への
原爆投下は悲惨で許しがたい行為ですが一歩間違えば日本も同じ
ことをしていたかもしれない。戦争とは恐ろしいものです。
ちなみに旧日本軍は兵器の性能を重視し、完成度に溺れるあまり
電探(レーダー)の開発が著しく遅れたことが敗因の一つだと言われ
ていますが、この潜水艦が実際に存在したならひょっとしたら戦況は
大きく変わり今の世界は全く違ったものになったかもしれません。

この映画の最大の魅力は、強烈なメッセージです。
「大人は責任を取らない」「このままだと米国に隷属してしまう」
など当時も今も通じるところがあり、ひょっとしたら歴史は
変わっていたのかもしれないという部分を秘めています。
艦内の乗組員の作業も見所の一つです。他の潜水艦映画も面白い
ですが、海外の艦だったり、設定が新しすぎたりします。
泥臭い乗組員が行う、これまで見たこともなかった作業や聞いた
こともない用語も魅力。艦長の「ちょいブロー」「ちょい上げ」
のような極めてアナログな指示には感動すら覚えました。
役所広司はハマり役。声、言い方といい最高でした。

この映画に登場する3発目の原爆投下計画は、賛否が分かれる
ところです。実際に東京を計画していたという話も聞いたことが
ありますし、2発目を投下できなかった小倉に落とすという話や
日本人の士気を殺ぐために京都に落とすとかいう話もどこかで
聞いたことがあります。一方で皇居は絶対に狙わないとか文化
財が多い京都は米国内の学者の提案で空襲などの対象から
外されていたとか、さまざまな情報が飛び交っています。
どれも嘘かも知れませんし、どれも本当なのかもしれません。
当時の大統領、トルーマンが3発目以降の投下に反対していた
という話もありますが、軍が強行すれば大統領とはいえども現場
でそれを止めるのは無理なような気がします。
結果として史実では原爆は投下されず、東京、京都は対象外
だったという見方が強いですが、どれもこれも単位偶然が重なった
だけなのかもしれません。結果的に天皇制も残ったりなど微妙な
バランスで今の日本は誕生しています。

「最終評価A」

潜水艦を題材にした映画というものは、限られた空間で人と人と
の感情がぶつかりあい、それでいて逃げ場がないので緊張感が
続くためか、意外にクソ映画が少ないような気がします。
ローレライは、声や腕時計など小道具の使い方に姑息な意図が
見え見えなことや、最終シーンの設定やCGの面で不満が残り
ますが、それを払拭してあまりある原作に支えられたといえます。
料理はネタで決まるということを象徴した映画です。
大画面できるバレバレのCGは悲しいですが、潜水艦という閉鎖的な
空間を体感するにはまずは劇場で作品を味わうことをお勧めします。
欲を言えば「終戦の」は外さないで欲しかった。ローレライだけだと
何だか意味が分かりません。

東映は、純愛映画に定評のある監督をゲットし、ハリウッドの看板を
背負った男優をわざわざ日本に連れ戻し、極限まで若作りさせた
大女優(ファンの方ごめんなさい)を引っ張り出して大スペクタルを
撮影しました。テーマ曲もアレンジやカバーでうんざりするほど聞か
されているホルストの「木星」を使うなどおいしいところを集めた映画
を作りましたが、残念ながら食材がいまいち新鮮ではなかった。
結果として社内だけの大冒険になってしまいました。
今、金券ショップでは、大ヒット上映中というPOPとともに前売券が
800円(通常は1200~1300円で発売される)で売られています。
この惨状をみるにつれ、金の掛け方だけじゃないんだなということを
痛感します。料理はネタです。映画も原作です(原作モノの場合)

観客動員数を上げるためのCMとはいえ、パールハーバーやウインド
トーカーズなどのような日本を敵視して描く映画が公開された時に
設定を無視して「感動した」「面白かった」とコメントする観客には
あきれましたが、ローレライは、米国に殴りこむような映画になって
欲しいものです。そのためのエンドロールではないのですか?
(考えすぎ?)

脱線ばかりでここまで書くのは一種の才能かなとも思う今日この頃。
ローレライ、必見です。

~鑑賞メモ~
鑑賞日:平成17年2月24日
劇場:ワーナーマイカルシネマズ板橋
観客数:ほぼ満席/262席
感涙観客数:50%以上
※感涙観客数は観客の鼻すすり音で推定
久々に涙がこぼれました。

ついでに紹介!

原作「終戦のローレライ」まずは1巻から。
やたら高い「Uボート」もどうぞ。

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Comments

再び岡枝です。しつこくてごめんなさい。『ローレライ』も早く観たいです~♪

‘広島に原爆が投下された昭和20年8月6日以降。映画が史実どおりに進めば避けられない悲劇をほとんどの日本人が知っています。それだけにすんなりと感情移入が出来ます’

↑もうこの手の内容にはかなり弱い、私の世代では類稀なる国粋主義者だもんで。(なぜそうなったかに関して、もし興味なぞおありでしたら、http://artgrey.tea-nifty.com/artgrey/2005/02/bebop.html
をお読みください。長いのでオススメするの心苦しいのですが…)

‘まず、欠点を挙げます…CG’

↑実は…私の旦那はフリーのCG屋なぞしておりまして、当初旦那に『ローレライ』のCGのお仕事のお依頼が来たのです。旦那も原作を読んでいて、もうそれはそれは大感激に感涙だったらしく、初めは依頼に大喜びだったのですが…ギャラが、あまりにも、あまりにも、ショボ。だったので、我家の家計の問題もございましたもので、泣く泣く別のお仕事を選択したのでした。ちなみに、CGにかけてた予算、マジで尋常でないくらい、いくら貧しい日本映画界にても、そりゃ無いだろ?ってほどに低かったそうです。旦那によると、あんな予算では腕のいいCG屋は全員断らざるを得なかったのだろうとのことです。一度激安大サービスしちゃったが最後、そのCG屋さんの仕事料のグレードはその程度でOKなのだな、と業界内で評判になって、自ら首を絞めるような結末に至ってしまう現実がフリーランスCG屋さん方にはあるらしいのです。

旦那もその後気になってネットでローレライの評判を探しまくっては、やはりCGに関してだけは皆様御不満の御様子に…納得。あの予算と制作期間じゃろくなものが出来るわけない、らしいです。映画評判いいみたいだから今後動員数もそこそこ稼げそうだし、そしたらその収入の一部でまたうちの旦那に依頼してくだされば、ダサイCGシーンは全部お作り直し差し上げますのに…

内容が良さそうなだけに、そういう些細な部分で貧乏臭さ感じさせられたり、現実に引き戻されちゃったりすると観る側にはダメージ結構でかかったりしますよね。さそ高めでございましたでしょう役所さんのギャラ、もちっと割いていただいて、その分CGシーンにも回して欲しかったかも?まだ観てないからあまり偉そうに言えませんが。

ちなみに原作には挑戦したのですが、なかなか本題に至らない前置き的な描写が長すぎて、読み続ければかなり本題と関連あったのかもしれませんが、文体のリズムみたいなものが私には合わなくてあえなく断念。最後まで読めば絶対に面白いのは充分分かっているのですが…なので、今度必ず映画で観ちゃいます♪

Posted by: 岡枝佳葉 | February 27, 2005 at 04:53 PM

CG、そういう話があったのですか…役者は、個人的に役所広司の艦内での指示が気に入っているのですが、別に大御所ばかりを集めなくてもいいと思いました。やはりその分、CGにかけてほしかったと思いました。
不況の今、タレントだの俳優だのが金の匂いのするところにたかっているような気がします。かつては見向きもされなかったような海外の映画とかアニメの吹き替えしかり。観客が喜ぶ素晴らしいモノを作ることとは次元が違う話のように思えてきます。CGにお金をかけたり、吹き替えもプロの声優に頼めばもっと良いものが出来るはず。

Posted by: yuworldmaster | February 27, 2005 at 06:06 PM

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